第11章ー72
「【火球】! 【火球】!! 【火球】!!!」
試合が始まってから、数分。
――状況は、ほとんど変わっていなかった。
「【火球】!」
ドンッ!!
「……」
俺が放った火球が、アラガの前にそびえ立つ氷の壁へと直撃する。
ジュワアアアアアッ!!
炎が氷を焼き、水蒸気が噴き出す。
だが。
「……」
アラガは動かない。
氷壁にも、大きな変化はない。
「……マジかよ」
俺は思わず顔を引きつらせる。
そして。
「【火球】!!」
再び火球を放つ。
ドンッ!!
「【火球】!!」
ドォンッ!!
「【火球】!!!」
ドォォォンッ!!
ひたすら撃つ。
撃って。
撃って。
撃ち続ける。
……けど。
「……」
アラガの氷壁は、一向に崩れない。
最初の一発こそ、詠唱を使ってそれなりの威力を出した。
だが。
あれが簡単に防がれた時点で、俺は一つの結論に達していた。
――いちいち詠唱する意味がない。
詠唱をしている間に、アラガは余裕で防御を間に合わせられる。
なら。
詠唱なんて捨てちまえ。
「【火球】!」
俺は無詠唱で火球を連発する。
威力は、あえて一割程度まで抑えている。
理由は単純。
魔力を節約するためだ。
アラガの防御を一発で破壊できない以上、全力で撃ち続けるのは効率が悪すぎる。
だったら。
最低限の威力で攻撃を繰り返す。
そうすれば、魔力の消費を抑えながら、アラガに反撃の隙を与えずに済む。
そして何より――。
この時間を使って、あいつの攻略法を探す。
「【火球】!!」
ドンッ!!
「……」
アラガは、またしても氷壁で防ぐ。
……やっぱりだ。
あいつは、一度氷壁を作ってから一歩も動いていない。
俺がどれだけ攻撃を繰り返しても、ただ氷の壁の向こうに立っているだけ。
それなのに。
その壁は未だに崩れる気配すらない。
「……頑丈すぎだろ」
思わず愚痴が漏れる。
威力を一割まで落としているとはいえ、俺だって何十発撃ったと思ってるんだ。
それなのに、傷一つまともに付いていない。
『おおっと―――!! サダメ選手、怒涛の攻撃魔法連発だ―――――!!!』
ヒューズ先輩の実況が響き渡る。
『しかし!! アラガ選手の鉄壁の防御を、未だに突破できない―――――!!!』
『これはまさに、矛盾対決!! 果たして、どちらに軍配が上がるのでしょーかー?!』
「……」
『しかし、このままいけば、かなりの長期戦になりそうですね』
今度は解説役の声。
『となると、勝敗を分けるのは魔力量でしょうか。サダメ選手も魔力消費を抑えているようですが、アラガ選手の魔力量は未だ底が見えません。果たして、サダメ選手がどこまで持ちこたえられるか……』
……。
いや。
まあ。
言ってることは正しい。
正しいんだけど。
「……実況まで冷静になってきたな」
さっきまでの熱狂が、少しずつ落ち着いてきている。
無理もない。
試合が始まってから、ずっと同じことを繰り返しているんだから。
俺が火球を撃つ。
アラガが防ぐ。
俺がまた火球を撃つ。
アラガがまた防ぐ。
……観客からしたら、そりゃ飽きるよな。
でも。
俺自身も分かっている。
このまま長期戦になれば――。
不利なのは、俺だ。
「……」
アラガの氷壁を見る。
未だに余裕。
あいつには、疲労の色すら見えない。
それどころか。
俺の攻撃を、まるで作業のように防いでいる。
対して俺は。
「……はあ」
少しずつだが、魔力が減っている。
このまま続ければ、いずれ俺の方が先に限界を迎える。
だったら。
答えは一つだ。
――あいつの牙城を崩す。
真正面からじゃ無理なら。
別の方法を使う。
俺には――。
「……作戦なら、ある」
小さく呟く。
問題は。
その作戦を成功させるためには、まず――。
アラガの死角を作る必要がある。
なら。
「……ここだ」
俺は、あえて右手を構えた。
そして。
「爆ぜる焔よ、火の球として聚合し――」
俺が詠唱を始めた瞬間。
「……?」
アラガの目が僅かに動いた。
当然だ。
今まで無詠唱で攻撃を繰り返していた俺が、突然詠唱を始めたんだから。
「眼前に現れし標的に猛る一投を撃ちかけん――」
狙いは。
アラガ本人じゃない。
「【火球】!!」
ドンッ!!
放った火球が、アラガの手前。
その足元へと着弾する。
「――ッ!?」
ドォォォォォンッ!!
爆発。
地面のセメントが一気に砕け散った。
「よしっ!」
狙い通り!
爆発によって、無数の破片が周囲へと飛び散る。
そして。
それと同時に大量の煙が巻き上がった。
「これで――!」
視界が白く染まる。
アラガの姿が見えなくなった。
――死角。
作った。
「今だ!!」
俺は即座に地面を蹴った。
「【脱兎跳躍】!!」
身体が一気に加速する。
煙の中を突っ切る。
アラガのいる場所へ。
俺は走る。
速く。
もっと速く。
そして。
氷壁があった場所まで接近した瞬間――。
「こっちだ!」
俺は右へと回り込む。
アラガの死角。
ここなら――。
俺の姿は見えない。
煙はまだ濃い。
アラガの姿も確認できない。
でも。
「……いる」
魔力感知。
俺は事前に、アラガの位置を大まかに把握していた。
ここだ。
この距離なら。
あとは――。
「爆ぜる焔よ、火の球として聚合し――」
俺は再び詠唱を開始する。
今度は。
さっきまでとは違う。
火球のサイズを大きくする。
威力も上げる。
この距離なら。
確実に当てられる。
「眼前に現れし標的に猛る一投を撃ちかけん――」
俺は確信していた。
これなら。
「……フレー……」
その瞬間。
「……ッ!?」
煙の中から。
突然。
何かが飛び出してきた。
目の前。
そこに現れたのは――。
人間の左手。
それだけだった。
煙の向こうから。
アラガの左手だけが。
まるで俺の攻撃を待ち構えていたかのように――。
俺の目の前へと、ぬっと姿を現した。




