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転生勇者が死ぬまで10000日  作者: 慶名 安
11章 魔闘祭編

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第11章ー71

 「……ふう」


 試合開始の合図が響いた直後。


 俺は一度、大きく息を吐いた。


 そして――深呼吸。


 肺いっぱいに空気を取り込み、ゆっくりと吐き出す。


 ……落ち着け。


 大丈夫だ。


 俺は自分に言い聞かせる。


 相手はアラガ。


 ――なら、やることは決まっている。


 俺は勝つ。


 絶対に勝って、こいつのことをもっと知ってやる。


 そのためにも。


 まずは――。


 「先手必勝!」


 俺は一気に意識を切り替えた。


 寮長との一戦。


 あの試合で分かったことがある。


 ――俺の攻撃は、当たらないわけじゃない。


 当てようと思えば、当てられる。


 だったら。


 今度は最初から攻める。


 「爆ぜる焔よ、火の球として聚合し――」


 俺は右手を前へ突き出した。


 視線の先。


 アラガを捉える。


 「眼前に現れし標的に猛る一投を撃ちかけん!」


 詠唱を続ける。


 不思議と手は震えていなかった。


 心臓は激しく鼓動している。


 緊張だってしている。


 それでも。


 前の試合の時とは違う。


 さっきの深呼吸が利いたのかもしれない。


 あるいは。


 アラガに勝つと決めたからなのかもしれない。


 どちらでもいい。


 今はただ――。


 目の前の敵に集中する。


 「【火球フレール】ゥ!!」


 ドンッ!!


 右手から放たれた炎の球が、一直線にアラガへと飛翔する。


 速い。


 今の俺が出せる最大限の威力。


 魔力制限が掛けられているとはいえ、俺にとってはむしろ好都合だった。


 普段の俺なら、もっと強力な魔法を使える。


 だが。


 今の制限された魔力量なら、俺の魔力が暴走する心配もない。


 だからこそ。


 この一撃に全てを込められる。


 ――当たれ!


 そう願った。


 だが。


 「……【氷壁アイール】」


 「……は?」


 アラガの口から、たった一言。


 それだけだった。


 次の瞬間。


 ズドォォォンッ!!


 俺の火球が、アラガの目の前に現れた巨大な氷の壁へと直撃した。


 炎と氷がぶつかり合い、凄まじい水蒸気が発生する。


 視界が白く染まる。


 ……防いだ?


 俺の攻撃を?


 しかも――。


 無詠唱で?


 「……ッ!?」


 俺は思わず目を見開いた。


 やがて水蒸気が晴れていく。


 そこに立っていたのは。


 無傷のアラガだった。


 「……」


 嘘だろ。


 俺は今、全力で撃ったぞ。


 自分が今出せる魔力を、全部使った。


 それなのに。


 こんな……。


 「……あっさり防ぐのかよ」


 思わず呟いてしまう。


 アラガの前にそびえ立つ氷壁には、多少の亀裂こそ入っている。


 だが、それだけだ。


 アラガ自身には傷一つない。


 ――実力差。


 それを、嫌というほど思い知らされた。


 『試合開始直後、なんとサダメ選手が先手を打った―――――!!!』


 ヒューズ先輩の実況が響く。


 『しかし!! アラガ選手、これを軽々と防いだ―――――!!!』


 「うおおおおおおおおおおっ!!!」


 「アラガすげえええええええ!!」


 「やっぱり強えええええ!!」


 会場が一気に沸き立つ。


 俺の攻撃が防がれたことに対する驚き。


 そして。


 それ以上に。


 アラガの圧倒的な実力に対する歓声。


 『魔力の制限が掛けられているとはいえ、無詠唱の魔法であれほど強固な防御魔法を展開できるとは……! アラガ選手の実力は、まだまだ底が知れませんね』


 ……そうだ。


 俺の魔法は、今出せる中で最大の威力だった。


 それを。


 アラガは詠唱すらせずに防いだ。


 この時点で。


 もう、大半の観客は理解しただろう。


 ――実力が違う。


 俺とアラガ。


 その差を。


 正直に言えば。


 俺自身が一番驚いている。


 ここまで差があるとは思っていなかった。


 もちろん、強いとは思っていた。


 何せ、あの学園最強の男を一瞬で倒した奴だ。


 俺だって警戒していた。


 でも。


 実際に戦ってみると――。


 「……この程度か」


 「……ッ!?」


 アラガの声が聞こえた。


 思わず顔を上げる。


 アラガは、氷壁の向こうから俺を見ていた。


 その表情は相変わらず無愛想。


 だが。


 その目には、明らかな余裕があった。


 「……お前の言っていた『絶対に勝つ』ってのは、この程度なのか?」


 「……」


 ぐっ。


 こいつ……!


 さっきまで散々煽ってきたくせに。


 今度は俺を煽り返してきやがった。


 悔しい。


 腹が立つ。


 何より――。


 図星を突かれたことがムカつく。


 今の俺じゃ、アラガには届かない。


 それは認めるしかない。


 でも。


 だからって。


 「……まだまだ!」


 俺は拳を握り締めた。


 ここで引くわけにはいかない。


 俺は勝つと決めたんだ。


 アラガに勝って。


 こいつのことを知る。


 そのために、ここに立っている。


 なら。


 「まだ始まったばっかりだろうが!!」


 俺は地面を蹴った。


 再びアラガへ向かって駆け出す。


 「……」


 アラガの目が、僅かに細められた。


 その表情からは、何を考えているのか分からない。


 だが。


 俺は止まらない。


 魔法が効かないなら。


 別の方法を探す。


 攻撃が通らないなら。


 通るまで試す。


 何度だって。


 何度でも。


 ――勝つまで。

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