第11章ー70
『さあさあさあ―――――!!! 白熱の魔闘祭もいよいよ大詰め! 残すところ、あと二試合!! 長かった戦いも、ついに終わりが見えてきました! 名残惜しさはあるが、そんなことは気にしてられねえ!! 最後の最後まで、盛り上がっていこーぜ―――――!!!』
ヒューズ先輩の実況が会場中に響き渡る。
その瞬間。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
地面すら揺らすような大歓声が、会場全体を包み込んだ。
……すげえ。
魔闘祭が始まってから、もう何時間経ったんだ?
それなのに、この盛り上がりよう。
観客席を見渡してみれば、誰も彼もが興奮した様子で試合場を見つめている。
立ち上がって声を張り上げている人。
隣の人と試合の感想を語り合っている人。
次の試合が待ちきれないとばかりに身を乗り出している人。
中には、もう声が枯れてるんじゃないかと思うほど叫び続けている奴までいる。
……圧巻だな。
普通なら、こんな長時間騒ぎ続けてたら疲れてくると思うんだけど。
この人達、本当に元気だな。
俺だったら、とっくに喉が死んでるぞ。
そんなことを考えていると。
『さあ、それでは!! 先ほど決勝進出を決めたマヒロ選手に続き、決勝への切符を手にする二人の選手を紹介していきましょう!!』
来た。
選手紹介だ。
まずは――。
『先に紹介するのはこちらの男!! 一回戦では、あの学園最強の男をまさかの瞬殺!! その圧倒的な実力をもって、実質的に現学園最強の座を手にしたと言っても過言ではない!!』
会場がさらに沸き立つ。
俺も自然と、隣に立つ男へ視線を向けた。
『果たして、この男から学園最強の称号を奪い取ることができる者は存在するのか―――――!! 冷徹無慈悲の氷結マシーン!! ア、ラー、ガ―――――!!!』
「うおおおおおおおおおおおっ!!!」
「次もスゲー一発、決めてやれ―――――!!!」
「アラガくーん!! 頑張って―――――!!!」
「きゃあああああああああっ!!」
……。
アラガは、相変わらず無表情だった。
大歓声を浴びようが。
派手な二つ名を付けられようが。
女性陣から黄色い声援を送られようが。
「……」
まるで何も聞こえていないかのように、ただ黙って試合場を見つめている。
……こいつ、マジで動じないな。
だが。
一回戦の試合を見て、アラガを応援する奴が増えたらしい。
まあ、あれだけ派手に勝ったんだ。
そりゃあ人気も出るか。
……というか。
「アラガくーん! 頑張って―――――!!!」
「きゃああああああっ!!」
なんだこれ。
黄色い声まで飛び交ってるんだけど。
……正直、ちょっと羨ましい。
いや、別に俺だって黄色い声援が欲しいわけじゃないぞ?
……本当に欲しいわけじゃないからな?
ただ、なんというか。
もうちょっとこう……。
俺にも格好いい感じの声援があってもいいんじゃないか?
そんなことを考えていると。
『続きましてはこちらの選手!! 先ほどの試合では、クロノ選手の猛攻を魔力なしで真正面から受け切り!! その圧倒的な肉体と根性だけで勝利をもぎ取った、まさにフィジカルおばけ!!』
……ん?
なんか嫌な予感がする。
『外見からはおおよそ想像もつかない屈強な肉体!! 果たして、この男は二勝目を上げることができるのか―――――!!!』
おい。
ちょっと待て。
なんかおかしくないか?
『鋼の肉体と根性を兼ね備えたパッションモンスター!! サダメ・レールステ――――――ン!!!』
「……」
……。
…………。
俺は無言になった。
いや。
待て。
ちょっと待て。
確かに前の試合では、寮長の攻撃をまともに受けた。
確かに魔力強化も使わずに耐えた。
確かに、最後は肉弾戦で勝った。
……でも、それだけだろ!?
俺の戦い方には、もっとこう……。
魔法とか。
剣技とか。
そういう格好いい要素があったはずだ。多分。
なのに、いつの間にか俺の扱いが、
『魔法を使わず肉体で殴り合う謎の頑丈男』
みたいになってるんだけど!?
「おうおうおう!! 兄ちゃんも頑張れよー!!」
「今度も肉弾戦でいくんかー?!」
「その鋼の肉体でアラガをぶっ飛ばせー!!」
「……」
やめてくれ。
完全にそっち方面で定着してるじゃねえか。
俺は一体、どこで道を間違えたんだ。
応援してくれるのは嬉しい。
それは本当に嬉しい。
わざわざ俺のために声を張り上げてくれているんだから、感謝しない理由なんてない。
ないんだけど……。
素直に喜べないのは、何故なんだろうか。
俺は隣に立つアラガをちらりと見る。
「……」
アラガは無表情のままだった。
『両者、位置について!!』
審判の声が響く。
俺は気持ちを切り替え、指定された位置へと歩いていく。
アラガも同じように歩き出した。
試合場の中央。
俺とアラガ。
互いに向かい合う。
その瞬間。
空気が変わった。
観客の歓声すら、遠く感じる。
さっき、アラガに言われた言葉が脳裏に蘇る。
俺に勝ってみろ。
そうすれば。
お前が知りたいことを、教えてやる。
あの言葉が本当にそういう意味なのかは、まだ分からない。
でも。
俺はもう決めている。
勝つ。
そして。
こいつのことを、もっと知る。
俺は静かに拳を握り締めた。
「……絶対に、勝つ」
小さく呟く。
その声は、観客の歓声に紛れて誰にも届かなかった。
――いや。
「……」
目の前のアラガだけは。
なぜか俺の言葉を聞いたような気がした。
アラガが僅かに目を細める。
「……」
俺も視線を逸らさない。
もう、俺達の間に言葉はいらなかった。
『――――試合、開始!!』
その瞬間。
会場を揺るがすほどの歓声が爆発した。
そして。
俺とアラガの準決勝。
決勝への切符を懸けた戦いの火蓋が――。
今、切って落とされた。




