第11章ー68
「なっ!?」
思わず声が漏れた。
アラガの背中が遠ざかっていく。
俺はその場に立ち尽くしたまま、今聞いた言葉を頭の中でもう一度繰り返していた。
――俺はお前をここで潰して、この学園を去る。
「……は?」
いや、待て。
ちょっと待て。
俺を潰す。
そこまでは……まあ、分からなくもない。
分かりたくはないけど。
俺のことを敵視しているアラガなら、次の試合で俺を倒すと言っているんだろう。
それなら話は分かる。
いや、やっぱり分かりたくはないけど。
問題は、その後だ。
――この学園を去る。
あれは、どう考えても卒業するという意味じゃない。
文字通り。
ここから出ていくという意味だ。
「ちょっと待て、アラガ!」
気付けば、俺は大声で呼び止めていた。
アラガの足が止まる。
けれど、振り返ろうとはしない。
「学園を出て、お前……どうするつもりなんだよ!?」
返事はない。
俺はさらに言葉を続ける。
「まさか……」
嫌な予感がした。
「学園を出た後、一人で魔王を倒しに行くつもりなのか?」
アラガの足が、ぴたりと止まった。
その沈黙が、逆に俺の予想を肯定しているように感じられた。
「……」
やっぱりか。
こいつ、本気でやるつもりなんだ。
学園を辞めて。
仲間も作らず。
国の支援すら受けず。
たった一人で魔王を倒しに行く。
そんな無茶苦茶なことを。
「お前には関係ねえ」
返ってきた言葉は、やっぱり冷たかった。
「それに、仮に俺がこの学園を出たとして……お前に何か不都合でもあるってのか?」
「……」
言葉に詰まる。
確かに。
言われてみれば、その通りだ。
アラガが学園を辞めようが、俺に直接的な不利益はない。
そもそも、俺たちは仲間ですらない。
友達というわけでもない。
むしろ、ずっと敵対されていた相手だ。
アラガが学園からいなくなったところで、俺が困る理由なんて――。
「……いや」
俺は首を横に振った。
「不都合ならあるよ」
「……は?」
アラガが初めて振り返った。
明らかに嫌そうな顔をしている。
「なんだよ、不都合って」
「……」
どうしよう。
言っていいのか、これ。
正直に言えば、絶対に変な奴だと思われる。
今まで散々敵視してきた相手に対して、こんなこと言ったら、普通は引くだろ。
俺だって逆の立場なら引く。
でも。
それでも。
俺は、どうしても気になっていた。
俺は一度、深く息を吸った。
そして。
腹を括る。
「……お前のこと」
アラガが怪訝そうにこちらを見る。
俺は、臆せずに真っ直ぐにその目を見返した。
「もっと知れなくなる」




