第11章ー67
「……レールステン」
「……?」
アラガが、こちらへ向き直る。
その瞳は相変わらず鋭かった。
いや。
さっきまでとは少し違う。
何かを確かめようとしている。
そんな目だった。
「お前は、本気で魔王を殺す気はあるのか?」
「……」
突然の質問に、思わず黙り込む。
「お前は、何のために勇者を目指す?」
「……」
質問が続く。
まるで尋問だ。
しかも、アラガの目は冗談を許してくれそうな雰囲気じゃない。
下手なことを言えば、余計にこいつの神経を逆なでしそうだ。
俺は一度、ゆっくりと息を吐いた。
どう答えるべきか。
考えたところで、格好いい答えなんて出てこない。
だから。
「……俺は、魔王を殺すことを目標にしてるわけじゃない」
正直に答えた。
「……」
アラガの眉が僅かに動く。
明らかに怪訝そうな顔だ。
けど、俺はそのまま続けることにした。
「俺が勇者を目指そうと思った理由は……もっと別のところにあるんだ」
そう言って、俺は自分の過去を話し始めた。
自分が生まれ育った村が魔物に襲われたこと。
そこで一年近く、奴隷のような生活を送っていたこと。
何をしても状況は変わらず、毎日をただ生き延びるだけだったこと。
そして――。
心が折れて。
自分で自分の命を終わらせようと考えたこと。
全部話した。
隠す必要なんてない。
少なくとも、今のアラガには。
「……そんな時だった」
俺は、ゆっくりと言葉を選ぶ。
「勇者が俺達の村に向かってるって話を聞いたんだ」
魔物たちが勇者の存在を恐れている。
それを知った時、俺は初めて思った。
もしかしたら。
この地獄にも終わりが来るのかもしれない、と。
「だから俺は、村にいたみんなと一緒に逃げる計画を立てた」
俺たちは必死だった。
あの場所から逃げ出すために。
自由になるために。
そして。
「……なんとか村からは脱出できた」
そこまではよかった。
でも。
「十死怪の奴に追いつかれた」
思い出すだけで、胸の奥が重くなる。
逃げ切れなかった。
力が足りなかった。
そして――。
「俺は、ミオ以外の子供たちを助けられなかった」
その言葉を口にした瞬間。
胸の奥に、あの時の光景が蘇った。
今でも夢に見る。
助けられなかった。
守れなかった。
俺には何もできなかった。
「……」
アラガは何も言わない。
ただ、黙って俺の話を聞いている。
俺は続けた。
「でも、あの時……勇者が来てくれた」
あの人が来てくれた。
絶望の中にいた俺たちを救ってくれた。
もし、あの人が来てくれなかったら。
俺も。
ミオも。
きっと今ここにはいない。
「その時俺、思ったんだ」
俺は拳を握る。
「ああなりたいって」
強くなりたい。
あの人みたいに。
絶望の中にいる人間の前に立って。
「俺たちみたいに苦しんでる人を助けられる人間になりたい」
それが、俺が勇者を目指す理由だった。
魔王を倒すため。
世界を救うため。
もちろん、それが大切じゃないとは思っていない。
魔王がこの世界を脅かしている元凶だということも分かっている。
魔王を倒さなければ、いつかまた誰かが俺たちと同じ目に遭うかもしれない。
それも理解している。
「でもさ」
俺はアラガを見る。
「俺は、勇者になって得た力を……人助けのために使いたいんだ」
それが俺の答えだ。
俺が勇者を目指す理由。
俺があの日、勇者に憧れた理由。
魔王を殺したいからじゃない。
世界を救う英雄になりたいからでもない。
ただ。
あの日の俺と同じように。
絶望の中で苦しんでいる誰かを、今度は俺が助けたい。
それだけだ。
「……」
アラガは何も言わなかった。
俺の話を、最後まで黙って聞いていた。
その表情は変わらない。
鋭い目つきも相変わらずだ。
だから、どう思ったのかは分からない。
少しは理解してくれたのか。
それとも。
やっぱり否定するのか。
やがて。
「……そうか」
アラガが口を開いた。
「……」
その声を聞いた瞬間。
なんとなく嫌な予感がした。
「やっぱ、お前も所詮はその程度か」
「……え?」
予想していたものとは、まったく違う答えだった。
思わず目を見開く。
「どういう意味だよ?」
しかし、アラガは答えない。
ただ、俺の横を通り過ぎる。
そのまま、この場を去ろうとしていた。
「……どうやら、俺のやるべきことは変わらないみたいだな」
「……やるべきこと?」
思わず聞き返す。
その言葉が妙に引っ掛かった。
俺を倒す。
それだけじゃない。
何か別の意味があるような気がした。
足を止めたアラガは、背中を向けたまま答える。
「俺は――」
そして。
ゆっくりと振り返る。
「お前をここで潰して、この学園を出る」




