表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生勇者が死ぬまで10000日  作者: 慶名 安
11章 魔闘祭編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

725/752

第11章ー66

 「ッ!? 勇者の……罪!?」


 思わず聞き返してしまった。


 アラガの口から飛び出した、あまりにも衝撃的な言葉。


 勇者が罪を犯した?


 そんな話、今まで一度だって聞いたことがない。


 俺の知る限り、勇者は魔王を倒すために旅立った英雄だ。


 この世界を脅かす魔王を討つため、国から選ばれた存在。


 少なくとも、俺がこれまで聞かされてきた勇者の話はそういうものだった。


 それなのに。


 「奴の本来の役目は、魔王を倒すことだ」


 アラガは冷たい声で言葉を続ける。


 「それなのに奴は、その使命を果たすことなく姿を晦ました」


 「……」


 「これは反逆と言ってもおかしくない罪だ」


 その言葉を聞いて、ようやく理解した。


 ああ。


 そういうことか。


 アラガは、勇者が魔王討伐という国から与えられた使命を途中で放棄し、逃げ出したと思っているんだ。


 勇者が消息を絶ってから、十年。


 今では「勇者はもう死んでいる」と考えている人間も少なくない。


 俺だって、最近ではそっちの可能性を考えることが増えてきた。


 あれだけの実力を持つ人間が、十年もの間、一切の消息を絶っている。


 普通に考えれば、不自然だ。


 何かがあった。


 そう考える方が自然なのかもしれない。


 だからこそ。


 「……なあ、アラガ」


 俺は一つ、気になったことを尋ねる。


 「お前はどうして、勇者が逃げたと思ったんだ?」


 アラガの目が、僅かに細くなった。


 「十年も消息がないなら、普通は死んだって考えるもんじゃないのか?」


 そう。


 俺が知りたいのはそこだった。


 なぜアラガは、勇者が死んだのではなく、逃げたと考えたのか。


 するとアラガは、まるで最初から答えを用意していたかのように語り始めた。


 「奴はまだ二十代前後だった」


 「……」


 「老衰で死ぬような年齢じゃねえ。病に侵されていたような話も聞かねえ」


 確かに。


 あの頃の勇者は、まだ若かった。


 少なくとも、俺が知る限りでは健康そのものだったはずだ。


 「ましてや、奴がそこらの魔物に殺されるとは思えねえ」


 アラガの言葉に、俺も黙って頷く。


 それもそうだ。


 あの人の実力を知っているからこそ、簡単に命を落とす姿なんて想像できない。


 「ならば十死怪クラスの魔物か?」


 「……」


 「だが、そんな奴と戦えば、必ず大規模な戦闘になる。誰にも気付かれず、何の痕跡も残さずに死ぬなんてことは考えにくい」


 たしかに。


 十死怪クラスともなれば、戦闘は大規模なものになる。


 実際、俺がエイシャ達と戦った時だってそうだった。


 あれだけの力を持つ魔物と戦えば、周囲に何らかの痕跡が残る。


 目撃者だって出るだろう。


 それなのに、勇者が消息を絶った時。


 その最期を見た者は誰もいない。


 「となれば、答えは一つだ」


 アラガは断言する。


 「奴は自らの使命を放棄し、周囲から身を隠して逃亡した」


 「……」


 「ひょっとすると、今頃は国外へ亡命している可能性だってある」


 そこまで聞いて、俺はなんとなく理解した。


 アラガは、勇者が逃亡したと決めつけているわけじゃない。


 違う。


 今までの情報を一つ一つ積み重ねた結果、そう結論づけたんだ。


 確かに、理屈としては分からなくもない。


 勇者は若かった。


 病気だったわけでもない。


 そこらの魔物に倒されるような実力でもない。


 十死怪クラスと戦った形跡もない。


 そして、十年もの間、消息が途絶えている。


 ならば、逃亡した。


 そう考えるのも無理はない。


 「……」


 だけど。


 俺にはどうしても、その結論だけは受け入れられなかった。


 あの人が。


 俺がこの目で見た、あの勇者が。


 魔王を倒すという使命から逃げ出す?


 どうしても信じられない。


 俺は直接、あの人の戦いを見た。


 あの人が、どれだけ多くの人を救ってきたのかも知っている。


 そんな人が、何もかも放り出して逃げるなんて。


 俺には到底、想像できなかった。


 「それに――」


 その時だった。


 アラガの声が、再び響く。


 「魔王を倒すとは言っていたがな」


 その声音には、明らかな苛立ちが混じっていた。


 「所詮それは建前だったんだろうよ」


 「……」


 「奴がやっていたことは、目の前にいる人間を助けるだけの対処療法に過ぎねえ」


 アラガの拳が、再び強く握り締められる。


 「奴に求められていたのは原因療法だ」


 「原因療法……」


 「そうだ。元凶を断つことだ」


 アラガの瞳に、怒りの炎が宿る。


 「魔王を倒さなきゃ、何の意味もねえ」


 言っていること自体は、理解できる。


 魔王が存在する限り、この世界の脅威は消えない。


 いくら目の前の人間を救ったところで、魔王が生み出す脅威そのものを消さなければ、また誰かが傷つく。


 それは間違っていない。


 でも。


 だからといって。


 「……呑気に人助けを続けた挙句、嫌気が差して逃げ出した」


 アラガは吐き捨てる。


 「そのせいで、この国は未だに脅威に晒され続けている」


 「……」


 「この世界だって同じだ」


 その言葉には、もはや冷静さなど残っていなかった。


 憎悪。


 怒り。


 そして、どうしようもない私怨。


 まるで――。


 信じていた誰かに、裏切られたかのような。


 「だから俺は、あんな奴なんぞに頼らねえ」


 アラガが俺を睨みつける。


 「俺自身の手で魔王を打ち滅ぼす」


 拳が震えている。


 「臆病風に吹かれた勇者共に代わってな!!」


 「……」


 何も言えなかった。


 アラガの言葉は、理屈だけを聞けば理解できる。


 勇者が使命を放棄した。


 だから自分が代わりに魔王を倒す。


 それだけなら、ただの強い決意だ。


 でも。


 今のアラガを見ていると、それだけじゃない。


 こいつは勇者を憎んでいる。


 いや。


 ただ憎んでいるだけじゃない。


 信じていたんだ。


 勇者が使命を果たしてくれると。


 世界を救ってくれると。


 それなのに――何かをきっかけに、その期待を裏切られた。


 だからこそ、許せない。


 自分の手で魔王を倒すと誓った。


 まるで。


 逃げ出した勇者の代わりに、自分がその責任を背負おうとしているかのように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ