第11章ー63
『さあーーっ!! 一回戦の激闘がすべて終了し、束の間の休憩も終わりましたぁぁぁぁぁっ!! ここからはいよいよ準決勝! さらに熱い戦いを見せてもらいましょう!!』
ヒューズ先輩の元気なアナウンスが、闘技場中に響き渡る。
一回戦終了から、およそ一時間。
その間に選手たちは休息を取り、激しく損傷したリングも修復された。
そして、いよいよ準決勝が幕を開ける。
「ふぅ……」
もっとも。
そんな熱気とは正反対に、俺は医務室のベッドへ寝転がっていた。
クロノ寮長との試合で受けた傷は、治癒魔法のおかげでほとんど塞がっている。
とはいえ、全身に残る鈍い痛みまでは消えない。
身体を動かすたび、あちこちが悲鳴を上げていた。
ベッドの正面には魔導モニター。
そこへ闘技場の様子が映し出されている。
「サダメー」
聞き慣れた声に顔を向ける。
「お水、飲む?」
コップを両手で持ったミオが、てくてくと近寄ってきた。
「ありがとう」
身体を起こし、コップを受け取る。
冷たい水が火照った喉をゆっくり潤していく。
「生き返る……」
思わず本音が漏れた。
ミオはくすっと笑う。
どうやら治療を終えた後は、医務室の手伝いをしているらしい。
といっても、患者へ水を運んだり備品を整理したりと簡単な仕事だけだ。
それでも本人は、
「治療してるところを見るだけでも勉強になるから」
と嬉しそうに話していた。
本当に努力家だよな。
さっきマヒロに負けたばかりだというのに。
悔しくないはずがない。
それでも泣き言一つ言わず、もう次へ向けて動き出している。
その姿勢には素直に感心させられる。
『それでは準決勝第一試合! 選手の入場です!!』
実況とともに、画面へ映し出されたのは――。
「マヒロだ」
堂々とリングへ上がるその姿を見て、自然と口元が緩む。
「……マヒロ、やっぱり強かったなぁ」
隣でミオがぽつりと呟いた。
「……」
返事はできなかった。
なんて言えばいいのか分からなかったからだ。
悔しさを慰めるべきなのか。
健闘を褒めるべきなのか。
迷って横を見ると、ミオは画面を見つめたまま穏やかに微笑んでいた。
そこにあるのは敗北への未練ではない。
強い相手と戦えた満足感。
そんな表情だった。
苦い思い出には、ならなかったみたいだ。
それだけで少し安心する。
◇
『クリス選手、戦闘不能!!』
『勝者、マヒロ・トーエンッ!!』
歓声が闘技場を揺らす。
試合時間は、ほんの数分。
クリス先輩が誇る鉄壁の防御魔法は、マヒロの剣技の前では長く持たなかった。
魔剣を封印されてなお、この強さ。
もう実力を疑う者はいないだろう。
「やっぱり、すげぇな……」
思わず苦笑する。
あれが今のマヒロ。
準決勝を突破し、そのまま決勝まで駆け上がっても不思議じゃない。
「……よし」
俺もそろそろ行くか。
ベッドから立ち上がり、大きく伸びをする。
身体はまだ少し重い。
それでも戦えないほどじゃない。
荷物を持って医務室を出ようとした、その時だった。
「サダメ」
ミオが俺を呼び止める。
「ん?」
振り返ると、彼女は優しく笑っていた。
「頑張って」
その一言だけだった。
「……ああ」
俺も笑って頷く。
きっと純粋な応援なんだろう。
だけど、どうしても別の意味にも聞こえてしまう。
もちろん考えすぎだ。
ミオにそんな意図はない。
それでも。
その言葉は不思議なくらい胸に響いた。
「行ってくる」
小さく手を振り、俺は医務室を後にする。
――準決勝第一試合
× クリス・タルト 対 〇 マヒロ・トーエン




