第11章ー56
――魔力の視覚化。
目に映るあらゆる魔力の流れを捉え、その動きまでも見抜く特殊な能力。
攻撃の起こり。
魔力の巡り。
身体強化のタイミング。
魔法の発動。
そのすべてを先読みできるからこそ、この人はここまで圧倒的に強い。
魔法が使えない今の自分では、真正面から挑んだところで勝負にならない。
だから勝つには、その"目"をどうにかしなければならない。
「……」
荒い息を整えながら、必死に思考を巡らせる。
さっきまでの攻防を一つひとつ頭の中で思い返す。
そして――。
「……あ」
脳裏に一筋の光が走った。
もしかしたら。
いや、違う。
そういうことか。
あの能力は決して万能なんかじゃない。
もし自分の考えが正しければ、この人にも必ず一瞬だけ対応できない瞬間があるはずだ。
もちろん確証なんてない。
思い違いかもしれない。
失敗すれば、その瞬間に試合は終わる。
それでも――。
今の自分には、この可能性に賭けるしかない。
「レールステン」
静かな声が響く。
顔を上げると、寮長がこちらを見据えていた。
「そろそろ負けを認めた方がいいんじゃないのか?」
再び降参の勧告。
その無表情は相変わらずだったが、どこか疲れが滲んで見えた。
当然だ。
客席から見れば、この試合は勝負ですらない。
一方的に叩きのめされる自分。
容赦なく攻め続ける寮長。
もはや試合というより、公開処刑に近い光景だろう。
審判だって、止めるタイミングを図っているに違いない。
だが――。
俺はまだ終わっていない。
ようやく見つけた、たった一つの勝機。
それが勘違いだったとしても構わない。
最後まで足掻いて、それで負けるなら納得できる。
何もしないまま終わる方が、よほど悔いが残る。
「んっ」
自分は寮長の目を真っ直ぐ見つめる。
そして、ゆっくりと首を横へ振った。
降参するつもりはない。
その意思だけを、無言で突きつける。
「……ハア」
寮長は小さくため息を漏らした。
呆れか。
諦めか。
それとも、最後の情けだったのか。
その真意は分からない。
だが、次に続いた言葉だけははっきりと耳に届いた。
「なるほど。よく分かった」
その瞬間。
寮長の左拳が静かに握り締められる。
ギリ、と骨が軋む音。
拳へと一気に集まっていく魔力。
空気が震えた。
背筋を冷たいものが駆け上がる。
――来る。
今までとは違う。
手加減ではない。
本当に、この一撃で終わらせるつもりだ。
魔法で極限まで強化された拳。
対する自分は、魔力すら使えない生身の身体。
まともに受ければ、立ってはいられない。
結果など考えるまでもない。
だからこそ。
ここしかない。
この一撃。
この一瞬。
この人が自分を倒そうとする、その瞬間こそが唯一の勝負どころだ。
心臓が激しく脈打つ。
呼吸を整える。
視線は逸らさない。
あとは信じるだけだ。
自分が見つけた、たった一つの可能性を。
――この拳をきっかけに、俺は必ずあの"目"を崩してみせる。




