第11章ー51
『さあ、お待たせいたしました! ついにこれで出場選手全員が出揃う、一回戦最後の試合だー!! 最後まで盛大に盛り上がっていこうぜー!!』
自分とクロノ寮長がリングへ姿を現した瞬間、観客席から一斉に歓声が上がる。
その熱気に思わず息を呑んだ。
……すごい。
これだけ大勢の人の前に立つのは、生まれて初めてかもしれない。
四方八方から注がれる視線。
耳を震わせる歓声。
リングを包み込むような熱気。
そのすべてが一気に押し寄せてきて、自然と心臓の鼓動が速くなる。
みんな、こんな雰囲気の中で戦っていたのか。
改めて考えると、それだけで少し尊敬してしまう。
俺なんて、まだリングへ上がっただけで緊張してるっていうのに。
『それでは、一回戦第四試合の選手紹介と参りましょう! まずはこの男!!』
ヒューズ先輩のよく通る声が会場中へ響く。
『この男に見破れぬものなし! その鋭い眼光は学園寮の秩序を乱す者を決して見逃さない! 掟を破る者には容赦なき制裁が待っている! 学園寮の規律を守る執行人――クロノォォォ・メノグリィィィフ!!!』
「なんだ、その紹介は」
寮長は小さく苦笑しながら頭をかく。
普段の落ち着いた姿とのギャップが少し面白くて、思わず肩の力が抜けた。
……まあ、本人からしたら困るよな。
いくら盛り上げるためとはいえ、ちょっと盛りすぎな気がする。
というか。
この紹介だと、俺はこれから裁かれる犯罪者みたいじゃないか。
別に何も悪いことしてないんだけど。
そんなくだらないことを考えていると、実況はすぐに次の紹介へ移る。
『そして、その男の前へ立ちはだかるのはこの男!!』
「……ッ」
今度は俺だ。
思わず背筋が伸びる。
『今や学園でちょっとした有名人! 数々の強敵を打ち破り、着実に頭角を現してきた新進気鋭のルーキー!!』
いやいや。
そんな大げさな。
『刮目せよ! 新たな勇者が生まれるその瞬間を!! 新時代の見習い勇者――サダメ・レェェェルステェェェン!!!』
「……」
恥ずかしい。
めちゃくちゃ恥ずかしい。
紹介される側って、こんな気分なんだな。
しかも"見習い勇者"って。
確かに勇者を目指すとは公言した。
したけど。
こうして大勢の前で堂々と叫ばれると、なんというか……。
穴があったら入りたい。
今さらながら、勇者を目指すなんて堂々と言った過去の自分を少しだけ恨みたくなった。
「……ふぅ」
小さく息を吐く。
落ち着け。
余計なことを考えるな。
恥ずかしがっていても試合は始まる。
『両者、位置について』
ライラック先生の落ち着いた声が響く。
俺とクロノ寮長は互いに向き合い、それぞれ開始位置へ立った。
さっきまで笑っていた寮長の表情は、もう真剣そのものだった。
俺も気持ちを切り替える。
観客の歓声も。
実況の声も。
今は全部忘れろ。
見るべきなのは目の前の相手だけ。
クロノ・メノグリフ。
俺が最初に越えなければならない壁だ。
ゆっくりと拳を握る。
掌に力がこもる。
緊張はまだ消えていない。
でも、不思議と恐怖はなかった。
むしろ、この人と全力で戦えることに少しだけ胸が高鳴っている自分がいた。
ライラック先生がお互いの様子を確認し、静かに右手を掲げる。
いよいよだ。
『……試合』
会場全体が息を呑む。
ほんの一瞬、時間が止まったような静寂が訪れる。
そして――。
『開始!!』
開始の合図が高らかに響き渡る。




