第11章ー49
「……」
控室のモニターに映し出された試合終了の光景を見届けたまま、俺はしばらく言葉を失っていた。
レイジ先輩が負けた。
それも、あそこまで一方的な形で。
学園で最強。
その肩書きを知らない生徒なんてほとんどいない。
強力な雷魔法の使い手であり、誰もが優勝候補の筆頭に挙げる存在。
そんな人が、一年のアラガに何もさせてもらえず敗れた。
……信じられなかった。
会場が静まり返るのも無理はない。
俺だって今見た光景が現実なのか、まだ半信半疑だった。
「アラガって……こんなに強かったのか」
思わず独り言が漏れる。
正直、少し侮っていた。
無口で近寄りがたい奴という印象はあったが、まさか学園最強と呼ばれるレイジ先輩を完封するほどの実力者だったなんて。
あの戦いは接戦ですらなかった。
最初から最後まで、全てがアラガの掌の上だったように見えた。
俺なら、あんな戦い方ができるだろうか。
いや、そもそも対抗できるのか。
もし俺が次の試合に勝てば、準決勝で当たる相手はアラガだ。
さっき見せられた戦いを思い返すだけで、背中に冷たいものが走る。
雷を逆手に取って自滅させるなんて発想、普通は思いつかない。
それを試合の最中に実行し、成功させてしまう冷静さも恐ろしい。
……あんな化け物が相手で、本当に勝てるのか。
「……ッ!」
俺は勢いよく自分の頬を両手で叩いた。
パンッ、と乾いた音が控室に響く。
何を弱気になってるんだ。
まだ俺は一回戦すら始まっていない。
準決勝の心配なんて、それこそ気が早すぎる。
まず勝たなきゃ、その舞台に立つことすらできないんだから。
「……よし!」
軽く拳を握り直す。
今考えるべきなのはアラガじゃない。
目の前の試合だ。
目の前の一勝だけを見ろ。
そう自分に言い聞かせ、俺は控室を後にした。
◇
「……ふぅ」
廊下を歩くたびに、胸の鼓動が少しずつ速くなっていく。
いよいよ俺の番だ。
ここで負けるわけにはいかない。
この大会で優勝できなければ、コールスタッシュ先生との特別補習も打ち切りになってしまう。
先生が俺のために時間を割いてくれた。
厳しい訓練を積ませてくれた。
あの期待を無駄にはしたくない。
勇者を目指すと決めた以上、人より努力しなきゃ追いつけない。
だから、この大会は俺にとってただの学園行事じゃない。
未来を切り開くための大切な一歩なんだ。
優勝する。
そのためにも、まずは目の前の相手を倒す。
そう何度も自分へ言い聞かせながら、深く息を吸ってゆっくり吐く。
少しでも緊張を落ち着かせようと深呼吸を繰り返していると――。
「あっ!?」
思わず足を止めた。
「ん?」
向こうもこちらへ気付いたらしい。
廊下の曲がり角で、ちょうど鉢合わせになってしまった。
背は一九〇センチを優に超え、大人顔負けの整った顔立ち。
知的な雰囲気を漂わせる黒縁眼鏡。
落ち着いた佇まいだけでも、只者ではないことが伝わってくる。
その人物の顔を見た瞬間、俺は自然と背筋を伸ばしていた。
クロノ・メノグリフ。
魔法学園寮の寮長であり、俺が一回戦で戦う相手。
これから越えなければならない、最初の壁が目の前に立っていた。




