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転生勇者が死ぬまで10000日  作者: 慶名 安
11章 魔闘祭編

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第11章ー48

 『――――』


 誰も声を出せなかった。


 ついさっきまで会場を埋め尽くしていた歓声も、野次も、熱気も。


 その全てが嘘だったかのように消え去っている。


 静かだった。


 あまりにも静かだった。


 数万人が集まる闘技場とは思えないほどの沈黙が会場全体を支配している。


 それほどまでに、今目の前で起きた光景は衝撃的だった。


 レイジ・ボルデックス。


 学園最強と称される二年生。


 圧倒的な速度と雷魔法で数々の強敵を打ち倒してきた実力者。


 その彼が――。


 倒れている。


 リングの上で。


 動かない。


 『……はっ!?』


 我に返った私は慌てて駆け出した。


 審判だというのに、一瞬役目を忘れてしまっていた。


 それほど信じられない光景だったのだ。


 急いでレイジ君の元へ膝をつき、容態を確認する。


 呼吸はある。


 脈も問題ない。


 ただ――。


 『……意識はない、か』


 完全に気絶していた。


 身体のあちこちに放電の痕跡が残っている。


 おそらくは自分の雷によるダメージ。


 まさかレイジ君ほどの実力者が、自らの攻撃によって戦闘不能になるなんて。


 誰が予想できただろう。


 少なくとも私は想像すらしていなかった。


 『し、試合終了!!』


 慌てて立ち上がり、マイクへ向かって宣言する。


 『レイジ・ボルデックス、戦闘不能! よって勝者――アラガ!!』


 歓声は上がらない。


 観客達はまだ結果を受け入れ切れていないのだろう。


 私自身も同じだった。


 だからこそ、余計にその事実が重く響く。


 勝者となったアラガ君へ近付く。


 本来なら手を掲げ、勝利を宣言するところだ。


 しかし――。


 私がその手を取ろうとした瞬間。


 アラガ君は何事もなかったかのように身を引いた。


 『あ……』


 掴めなかった。


 彼は私を見ることすらなく、そのまま出口へ向かって歩き出す。


 勝った喜びも。


 興奮も。


 達成感も。


 何一つ感じられない背中。


 まるで当然の結果だったと言わんばかりに。


 その姿に、私は言い知れない寒気を覚えた。


 彼にとってレイジ君は越えるべき壁ですらなかったのだろうか。


 もしそうだとしたら――。


 彼は一体どこを見て戦っているのだろう。


 やがて会場のどこかから、ぱちりと拍手が鳴った。


 一人。


 また一人。


 少しずつ拍手が広がっていく。


 だが、その音には戸惑いが混じっていた。


 誰もがまだ理解できていない。


 学園最強が敗れた。


 その事実を。


 私も同じだった。


 『え、えーっと……ま、まさかまさかの大番狂わせぇぇぇ!!』


 ようやくヒューズ君が声を上げる。


 無理やり空気を動かそうとしているのが伝わってきた。


 『一年生のアラガ選手が、学園最強の男! レイジ・ボルデックス選手を撃破しましたー!!』


 『こ、これは今年の魔闘祭、かなり荒れそうな予感がするぜー!!』


 『え、ええ……そうですね』


 隣の実況席からもぎこちない声が返ってくる。


 普段なら軽快に喋る二人でさえ、まだ衝撃を引きずっているらしい。


 それでも実況を再開してくれたおかげで、凍り付いていた会場の空気は少しずつ動き始める。


 観客達もようやくざわめきを取り戻し、あちこちで驚きの声が上がり始めた。


 当然だ。


 今大会最大の優勝候補が、一回戦で姿を消したのだから。


 この結果によって大会の勢力図は大きく塗り替えられる。


 そして何より――。


 アラガという存在を、誰も無視できなくなった。


 私は医療班へレイジ君を引き渡しながら、リングを去っていくアラガ君の背中を見つめる。


 その小さな背中が、今は誰よりも大きく見えた。


 こうして。


 誰も予想しなかった大波乱の一戦は幕を閉じた。


 そして魔闘祭一回戦も、残すところあと一試合となる。


 ――一回戦第三試合


 × レイジ・ボルデックス 対 〇 アラガ

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