第11章ー47
「ああああああああ!?」
全身を貫く激痛の中、俺は叫び声を上げた。
何が起きてやがる。
自分の雷だ。
自分の力で、俺が焼かれている。
そんな馬鹿な話があるか。
「っ……あ、あぁぁ……て、てめぇ……一体俺に……何を……」
歯を食いしばりながら、どうにか言葉を絞り出す。
身体はもう満足に動かねぇ。
膝も腕も感覚が鈍い。
それでも、目だけはアラガから逸らせなかった。
あり得ねぇ。
俺の【帯電】は雷を無効化するはずだ。
少なくとも、今までそれで通らなかった攻撃なんざ一度もなかった。
それが今、完全に崩されている。
「言ったはずだ」
アラガは淡々と口を開いた。
「俺はただ魔力を流しただけだ」
「……は?」
意味が分からねぇ。
こいつは何を言っている。
「氷は水の塊だ」
続けるその声は、まるで授業でもしているかのように平坦だった。
「この試合中に残った汗や魔力の不純物が混ざった状態で氷化した。そして俺の氷魔力がそれをさらに変質させた」
「塩分濃度が上がった、ってことだ」
「……海水?」
口にした瞬間、自分でもバカみてぇだと思った。
だが、アラガは構わず続ける。
「そうだ。正確には海水以上だな」
「……あんたの体質、本当は『無効化』じゃなくて『雷への耐性』が極端に高いだけだろ?」
「ッ……!」
心臓が跳ねた。
図星を突かれた衝撃で、一瞬呼吸が止まる。
こいつ……どこまで見抜いてやがる。
「おそらく一般人の数千倍、いや数万倍の耐性はある」
「だがな、それは“無効”じゃない」
「限界を超えれば普通に壊れる」
「今の一撃は、その限界を超えている」
淡々と。
感情の一切ないまま、現実だけを積み上げていく。
「数千万ボルト級の雷を想定したとしても」
「海水以上の塩分を持つ氷による通電」
「俺が流し続けた氷魔力」
「そしてお前自身が溜め込んでいた雷」
「それらを全部合わせれば、数十億ボルトは超える」
「耐えられるわけがない」
「容量オーバーだ」
「……」
言葉が出なかった。
理解したくないのに、理解できてしまう。
つまり――。
俺は。
自分の力で。
自分を壊した。
「……慢心してたな、お前は」
アラガの声が、やけに遠く聞こえる。
「お前は“無効化”だと思い込んでいた」
「だから限界を考えなかった」
「それが致命的だった」
「……っ」
違う。
そんなはずじゃねぇ。
俺は最強だ。
学園で一番で。
誰にも負けねぇはずだった。
「あと、お前は一つ勘違いしてる」
アラガは最後にそう言い放つ。
「お前が今やるべきことは反撃じゃない」
「降参だ」
「……ッ!?」
その言葉だけは、妙に重く響いた。
戦いの中の宣言じゃない。
勝者としての確定宣告だった。
最初から、こいつは勝っていたのか。
あの氷に捕まった時点で。
いや。
もっと前かもしれねぇ。
「……ちっ……くしょう……が……」
声にならない声を漏らす。
力が抜けていく。
視界が揺れる。
雷も、熱も、怒りも、全部が遠のいていく。
最後に見えたのは、変わらず冷え切ったアラガの瞳だった。
そこには勝利の喜びも、優越も何もなかった。
ただ事実だけが、静かにそこにあった。
そして俺の意識は、そのまま闇に沈んだ。




