第11章ー45
一段。
二段。
三段。
雷輪を潜るたび、俺の身体はさらに加速していく。
風が肌を叩く。
景色はとうに線となって流れ、観客の歓声すら遠く霞んで聞こえる。
気が付けば、【脱兎跳躍】なんざ使わなくても軽々と高く跳び上がれるほどの脚力になっていた。
最高だ。
これだから【八卦雷道】はやめられねぇ。
俺は上空へ配置した輪へ飛び移る。
輪の縁を掴み、そのまま勢いよく身体を一回転。
遠心力を利用して次の輪へ飛び移る。
速度は落ちるどころか、さらに増していく。
まるで雷そのものになった気分だ。
「はっ!」
思わず笑みが漏れる。
楽しすぎる。
強くなるってのは、こういうことだ。
視線をアラガへ向ける。
……動かねぇ。
さっきからずっと棒立ちのまま。
俺の姿を目で追えてすらいない。
いや、追えねぇんだ。
この速度について来られる奴なんざ、この学園にはそうそういねぇ。
ましてや一年坊主だ。
無理に決まってる。
だったら、このまま終わらせる。
輪を潜るたび、身体へ蓄積される雷も十分な量になってきた。
魔力制限のせいで普段より溜まりは遅いが、それでも一発ぶち込むには申し分ねぇ。
「雷帝の鉄槌を、我が右手に宿せ!」
詠唱を始めた瞬間、全身へ巡っていた雷が一気に右腕へ集まり始める。
青白い雷光が何重にも腕へ絡み付き、やがて巨大な雷の籠手を形作る。
俺のお気に入りの一撃。
真正面から力を叩き付ける、シンプルだからこそ避けづれぇ魔法だ。
これまで何人もの鼻っ柱をへし折ってきた。
自分の実力を過信した奴。
調子に乗った奴。
生意気な奴。
全員、この拳で黙らせてきた。
次はテメェの番だ。
「轟け!!」
タイミングを合わせ、一気に輪を蹴る。
俺の身体は雷となって空を裂いた。
狙うのは背後。
上空からの奇襲。
この速度なら見えもしねぇ。
気付いた頃には終わってる。
「【雷鳴拳】!!!」
渾身の右拳を振り抜く。
勝った。
そう確信した。
この一撃をまともに食らって立っていられる奴なんざ見たことがねぇ。
その無愛想なツラも。
人を見下したような目も。
全部まとめて地面へ叩き付けてやる。
――その時だった。
「……ハア」
小さく。
本当に小さく。
呆れたようなため息が聞こえた。
「……なっ!?」
次の瞬間だった。
右拳が届く寸前。
アラガの足元から凍気が噴き上がる。
いや、違う。
噴き上がったんじゃねぇ。
俺の足が――。
下半身が、一瞬で氷に呑まれていた。
バキッ――!!
耳障りな氷の音が響く。
膝から下が完全に凍り付き、勢いよく突っ込んでいた身体が強引に止められる。
あり得ねぇ。
速さなら俺が上だった。
死角から仕掛けた。
避ける時間なんざ、一瞬たりとも無かったはずだ。
なのに――。
どうして俺の方が止められている。
目の前では、アラガがゆっくりとこちらへ顔を向ける。
その表情は変わらない。
焦りも。
驚きも。
勝ち誇る様子すらない。
まるで最初から、この程度の攻撃など相手にもしていなかったと言わんばかりだった。




