第11章ー42
『この男の瞳は、常に冷酷。その瞳には何が映る?! そして、隠されたその右目には何を宿す?! 謎多きクールな美少年! その目で凍て尽くすのは目の前の強者か!? それとも女か!? 冷徹無慈悲な氷の要塞、ア――、ラ――、ガ―――――!!!』
実況席から高らかにアラガ君の名が呼ばれる。
しかし当の本人は、歓声も煽り文句も意に介する様子はなく、ただ静かにリングの中央へ立っているだけだった。
歓声を浴びても表情一つ変えない。その姿はまるで感情というものを切り捨てた氷像のようで、何を考えているのか全く読み取れない。
……彼を見ていると、どうしても期末試験での出来事を思い出してしまう。
あの時、彼の試験官はオーヴェン先生。そして共に試験へ挑んでいたのはチヤドール君だった。
本来なら協力して試験を突破するはずだった。しかし彼は一人で突っ走り、試験という枠組みすら忘れたかのようにオーヴェン先生へ殺意を向けた。
それだけでは終わらない。
自分と同じ受験者であるチヤドール君にまで暴力を振るい始めたのだ。
もちろん結果的には死人も出ず、試験そのものも無事に終了した。オーヴェン先生も悪ノリして応じてしまった節があるため、一概に彼だけを責めることはできない。
それでも。
あの時、私が見た彼の瞳だけは忘れられなかった。
迷いも、躊躇も、恐怖もない。
ただ相手を排除することだけを見据えた、あまりにも冷え切った眼差し。
あの歳で、あれほどまでに人を殺すことへ抵抗が薄いように見える精神は、どう考えても普通ではない。
教師として、多くの生徒を見てきた私だからこそ分かる。
あれは喧嘩好きや好戦的という言葉だけでは説明できない危うさだった。
コールスタッシュ先生や理事長からも、彼について少しだけ話を聞いたことがある。
アラガ君はウルヴェドの出身。
十五年以上前、十死怪の一人――グランドオーダーによって故郷を蹂躙された街だ。
グランドオーダー自身は、その五年後に勇者によって討伐されたと聞いている。
それでも彼が魔王を憎む理由は容易に想像がついた。
全ての元凶は魔王。
魔王さえ討てば復讐は果たされる。
そう信じて生きてきたのだろう。
その想い自体を否定するつもりはない。
故郷を奪われ、大切なものを失えば、復讐心を抱くことは決して不自然ではないからだ。
けれど、どうしても腑に落ちないことがある。
魔王への憎しみと、他人へ向ける冷淡な態度は本当に結び付くものなのだろうか。
目的を急ぐあまり周囲が見えなくなっているだけなのか。
それとも、彼の心には私達の知らない何かがあるのか。
任務でも彼は誰とも組まず、一人で行動することが多いと聞く。
仲間を信用していないのか、それとも信用できなくなった理由があるのか。
どちらにせよ、このまま放置していい状態とは思えなかった。
教師として、そして審判として。
私が最も恐れているのは、彼が負けることではない。
魔力制限が掛けられているとはいえ、この大会で誰かを本当に殺してしまうこと。
それだけは、絶対にあってはならない。
そんな不安を胸に抱えながらアラガ君を見守っていると、一人の少年がずかずかと彼の前まで歩み寄っていく。
「おうおうおう! てめーがアラガか?!」
「……ッ」
躊躇など微塵もないその声。
レイジ君だった。
思わず私は額へ手を当て、小さくため息を漏らす。
……よりにもよって、一番真正面からぶつかっていきそうな子が話しかけてしまった。
お願いだから、試合開始前に問題だけは起こさないでちょうだい。




