第11章ー40
「……やっぱり、マヒロが勝ったか」
試合終了のアナウンスを聞き、俺は画面を見つめたまま小さく呟いた。
リングの中央には勝者となったマヒロ。
そして担架で運ばれていくミオの姿。
最後まで目が離せない、本当に見応えのある試合だった。
ミオは自分の得意な風魔法を巧みに使い、真正面から戦えば不利なマヒロを見事に追い詰めた。
特に【四重の防風】。
あれには正直驚かされた。
ただ敵の攻撃を防ぐだけの防御魔法だと思っていたのに、まさか防壁そのものを移動させて相手をリングアウトさせるなんて。
完全に一本取られた。
あの発想は俺にはなかった。
あと数秒。
あと数歩。
マヒロの判断が少しでも遅れていたら、勝っていたのは間違いなくミオだった。
それほど完成度の高い作戦だった。
「……それでも、ひっくり返すんだからな」
思わず苦笑が漏れる。
あそこから勝つか、普通。
しかも魔妖なし。
木刀一本だけで。
竜巻のわずかな綻びを見抜き、一撃で突破してしまった。
あれはもう技術とか経験とか、そういう次元じゃない。
純粋な剣士としての才能。
土壇場でこそ本領を発揮する、あいつらしい勝ち方だった。
もしあれが魔妖だったら。
……考えたくもない。
これから当たる可能性があると思うと、背筋が少し寒くなる。
「……けど」
俺は画面の向こうへ視線を向ける。
運ばれていくミオの姿を見ながら、小さく息を吐いた。
「ミオも、本当に強くなったな」
あの一件――【魔海の大行進】以降。
俺達は全員変わった。
命懸けの戦いを経験し、自分の未熟さを思い知った。
だからこそ、それぞれが必死になって鍛えてきた。
俺も。
マヒロも。
そしてミオも。
一緒に過ごしてきたから分かる。
以前のミオなら、あそこまで積極的に勝ち筋を組み立てることはできなかったはずだ。
治癒師だから。
支援役だから。
そんな考えがどこかに残っていた。
でも今は違う。
勝つために考え、相手を追い詰める。
立派な戦闘職として戦えている。
その成長は誰の目にも明らかだった。
「……まあ、破られたけどな」
苦笑しながら肩を竦める。
とはいえ、相手が悪すぎる。
期末試験ではオーヴェン先生。
今回はマヒロ。
どっちも参考にならない相手だ。
普通なら勝負にすらならない連中なのに、あと一歩まで追い詰めたんだから十分すぎる。
むしろ善戦できる時点で、とんでもない実力なんじゃないか。
改めて考える。
この学園。
本当に化け物しかいない。
先生はもちろん。
生徒まで規格外ばっかりだ。
「……負けてられないな」
自然と笑みが浮かぶ。
二人の試合を見ているうちに、胸の奥が熱くなっていた。
強い相手と戦う。
限界を超える。
そんな姿を見せられたら、嫌でも気持ちは昂る。
俺は誰もいない控室で立ち上がると、軽く肩を回した。
首を鳴らし。
拳を握り。
足の感覚を確かめる。
身体をゆっくり温めながら、試合へ向けて気持ちを切り替えていく。
あいつらだけじゃない。
俺も負けるつもりはない。
優勝する。
そのために、この大会へ出場したんだから。
やがて第一試合の余韻が収まる頃、会場には再び開始のブザーが鳴り響いた。
モニターには次の対戦カードが映し出される。
一回戦第二試合。
ラーズヴェル・ルノワルド。
対。
クリス・タルト。
画面越しに二人がリングへ上がっていく。
俺はウォーミングアップを続けながら、その試合の行方を静かに見守るのだった。
――一回戦第二試合
×ラーズヴェル・ルノワルド 対 〇クリス・タルト




