第11章ー39
「……ふう」
静かに息を吐き、拙者は雷電を鞘へ納めた。
目の前では、腹部へ雷電の一撃を受けたミオがその場に倒れている。
しばらく様子を見守っていたが、立ち上がる気配はない。
どうやら気を失ってしまったようでござる。
多少は手加減したとはいえ、あの状況では中途半端な一撃など却って危険だった。
勝負の場では情けは無用。
迷いなく決め切ることこそ、相手への礼儀でもある。
そう自分に言い聞かせながら、静かに木刀から手を離した。
「……む?」
ほどなくして、審判役のライラック殿がミオのもとへ駆け寄ってきた。
膝をつき、呼吸や意識の有無を丁寧に確認している。
拙者も無事なのは分かっていたが、今は審判の仕事を邪魔するわけにはいかぬ。
数歩距離を置き、その様子を静かに見守る。
『……うん。気を失っているだけみたいだね』
ライラック殿の言葉に、胸の奥で小さく安堵する。
怪我は最小限。
それなら何よりでござる。
そしてライラック殿は立ち上がると、大きく右手を掲げた。
『ミオ・チヤドール、戦闘不能! 勝者――マヒロ・トーエン!!』
その宣言が闘技場いっぱいに響き渡る。
一瞬静まり返っていた会場は、次の瞬間、割れんばかりの歓声に包まれた。
『勝負あり―――ッ!! 一回戦第一試合を制したのは、異国の侍少女、マヒロ選手だーーー!!』
『両者とも見事な戦いでしたね。特にミオ選手は、あと一歩というところまでマヒロ選手を追い詰めました』
『いやぁ、正直あのまま押し切られるかと思いましたよ! あの窮地をひっくり返すとは……いやはや、刀とは侮れませんなぁ!』
『正確には木刀ですけどね』
実況席から聞こえる二人の掛け合いに、会場から笑いが起こる。
だが拙者は笑う気にはなれなかった。
今回の勝利は決して楽なものではない。
あとほんの少し判断が遅れていれば。
あの綻びを見抜けなければ。
今頃、場外へ落ちていたのは拙者の方だった。
――刀は所詮、借り物の力に過ぎぬ。
師範の教えがなければ、この勝利は掴めなかった。
改めてその言葉の重みを実感する。
そして、それ以上に。
ミオの成長には驚かされた。
以前なら後方から仲間を支えることしか考えていなかった少女が、自ら勝ち筋を組み立て、拙者をあと一歩まで追い詰めた。
あの防御魔法の応用も実に見事な発想。
もし対戦相手が拙者でなければ、そのまま勝っていた可能性も十分にあったでござろう。
治癒師だから戦えぬ。
そんな考えは、もはやミオには当てはまらぬな。
「……見事でござった」
誰にも聞こえぬほど小さく呟く。
友として。
そして一人の武人として。
あの戦いには心から敬意を抱いていた。
やがて役員達がリングへ上がり、ミオを担架へ乗せて運んでいく。
その姿が見えなくなるまで見送り、拙者も静かに踵を返した。
これで一回戦突破。
だが、まだ終わりではない。
あと一つ勝てば決勝。
そして、その先にはサダメ殿がおる。
……いや。
その前にアラガ殿がおる可能性も高いでござるな。
どちらが相手になろうとも不足なし。
むしろ望むところ。
強者と刃を交えられるほど、武人にとって喜ばしいことはない。
自然と口元が緩む。
されど油断は禁物。
今日の一戦で、それを誰より教えてくれたのはミオでござる。
ならば拙者も慢心はせぬ。
一戦一戦、全力で挑み続けるのみ。
そう胸に誓い、拙者は次なる戦場へ向けて静かに歩き始めた。
――一回戦第一試合
〇マヒロ・トーエン 対 ×ミオ・チヤドール




