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転生勇者が死ぬまで10000日  作者: 慶名 安
11章 魔闘祭編

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第11章ー38

 「……うぅっ」


 思わず小さく息が漏れる。


 四本もの竜巻を同時に維持しながら動かし続けるのは想像以上に魔力を消耗していた。


 腕が重い。


 呼吸も少しずつ荒くなっている。


 それでもあと少し。


 あと数歩。


 あと数秒。


 マヒロをリングの外まで押し出せば私の勝ちだ。


 だから今だけは絶対に気を抜けない。


 相手はマヒロ。


 誰よりも諦めが悪くて、誰よりも土壇場に強い人。


 追い詰められてからが本番と言ってもいいくらいだ。


 だから私は最後まで警戒を緩めない。


 このまま押し切る。


 そう心に決めた、その瞬間だった。


 「――はあっ!!」


 「ッ!?」


 鋭い気合が闘技場に響く。


 ついにマヒロが動いた。


 私は反射的に視線を向ける。


 そして息を呑んだ。


 「……うそ」


 マヒロは竜巻と竜巻の間。


 ほんの一瞬だけ生まれる、指先ほどの隙間へ雷電を滑り込ませていた。


 そんな……。


 あの隙間を?


 あの一瞬で?


 人間に見切れる速さじゃない。


 私自身、この魔法を使っていても正確なタイミングなんて分からないのに。


 けれど。


 目の前の光景は現実だった。


 マヒロならやるかもしれない。


 そこまでは理解できる。


 でも、その次が理解できなかった。


 「えっ……」


 次の瞬間。


 雷電が閃く。


 風が裂ける音が耳を打った。


 そして。


 一つの竜巻が真っ二つに切り裂かれ、そのまま霧のように崩れ去っていく。


 「そんな……!」


 思考が止まる。


 竜巻が斬られた?


 魔法が?


 しかも魔妖も使わずに?


 そんなこと……できるの?


 信じられなかった。


 いや。


 信じたくなかった。


 必死に積み上げた勝ち筋が、たったひと太刀で崩されていく。


 それをただ見ていることしかできなかった。


 「――しまっ!」


 我に返る。


 竜巻が消えたことで正面の防壁が完全に失われている。


 まずい。


 一本道だ。


 この距離なら一瞬で踏み込まれる。


 私は慌てて両手を前へ突き出した。


 次の魔法を。


 迎撃魔法を。


 少しでも時間を稼げれば――。


 そう思った。


 だけど。


 「勝負ありでござるな、ミオ」


 「ッ!?」


 声が近い。


 近すぎる。


 目の前にいた。


 いや、違う。


 気付いた時にはもう懐へ入り込まれていた。


 「え……」


 瞬きを一度しただけ。


 その一瞬で距離が消えていた。


 まるで瞬間移動。


 そう錯覚するほどの神速。


 もう魔法を放つ暇なんてない。


 完全に間に合わなかった。


 「御免!」


 その一言だけを残し、マヒロが雷電を突き出す。


 次の瞬間。


 腹部へ衝撃が走った。


 「がっ!?」


 同時に身体中へ電流が駆け巡る。


 ビリビリという生易しいものじゃない。


 全身の筋肉が一斉に悲鳴を上げ、力が抜けていく。


 息が止まる。


 視界が白く弾ける。


 立っていられない。


 膝から力が抜け、その場へ崩れ落ちた。


 「うっ……ぁ……」


 身体が言うことを聞かない。


 指一本動かせない。


 そういえば。


 初任務の時、マヒロはこの雷電だけで盗賊達を次々と気絶させていたっけ。


 正直、どれほどの威力なのか実感はなかった。


 でも今なら分かる。


 これは耐えられない。


 こんな一撃を真正面から受けて立っていられる人なんているんだろうか。


 「……うぅ」


 霞んでいく視界の向こうで、マヒロの姿だけがぼんやりと映る。


 悔しい。


 本当に悔しい。


 あと少しだった。


 あと少しで勝てたのに。


 でも――。


 最後のあの一太刀。


 あれだけはどうしても読めなかった。


 あれこそが、今の私とマヒロとの差なんだ。


 その事実だけは嫌というほど思い知らされた。


 意識がゆっくりと闇へ沈んでいく。


 歓声が遠ざかる。


 音も。


 光も。


 全てが少しずつ消えていく。


 そこで私の意識は静かに途切れた。

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