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転生勇者が死ぬまで10000日  作者: 慶名 安
11章 魔闘祭編

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第11章ー36

 『こ、これは……まさか!?』


 『ええ。ミオ選手が着実にマヒロ選手を追い詰めていますね!』


 実況席から聞こえてくるヒューズ殿とアルク殿の声。


 会場の熱気も徐々に高まっているのが分かる。


 だが今の拙者には、それを気にしている余裕はなかった。


 「……む」


 じり、と足を後ろへ下げる。


 その瞬間、周囲を囲む竜巻もまた同じように動いた。


 最初は拙者の行動を制限するための防御魔法だと思っていた。


 実際、その認識自体は間違っていなかったのであろう。


 しかし問題は、その先だ。


 四方を囲む風の壁はただその場に留まるだけではない。


 まるで生き物のように回転しながら、少しずつ後方へ移動しているのだ。


 そして拙者もまた、その圧力に押されるように後退を余儀なくされていた。


 「はぁっ……とっとっと!?」


 試しに木刀――雷電を振るう。


 鋭い一撃。


 だが次の瞬間。


 バチンッ!


 激しい衝撃と共に木刀が弾き返された。


 「ぬぅ……!」


 手の痺れを感じながら距離を取る。


 想像以上に硬い。


 ただの風ではない。


 圧縮された魔力の塊と言った方が正しいだろう。


 下手な障壁魔法よりよほど頑丈でござる。


 「むむむ……」


 これは参った。


 正直な感想であった。


 魔妖が使えるのであれば話は別だ。


 風を断ち切る術もある。


 強引に突破する方法も思いつく。


 しかし今の拙者に許されているのは木刀一本。


 頼れるのは己の技量のみ。


 そして、その技量だけでこの魔法を突破しなければならない。


 状況は決して楽観できぬ。


 むしろ絶望的と言ってもよい。


 後ろへ視線を向ける。


 リングの端。


 そこは確実に近付いていた。


 あと数歩。


 いや、数十秒か。


 このまま何もできなければ場外負け。


 試合終了でござる。


 「……」


 悔しい。


 その感情が胸の中に浮かび上がる。


 折角出場した魔闘祭。


 強者達と戦える貴重な機会。


 それが何もできぬまま終わるなど御免被る。


 ミオは間違いなく強くなった。


 それは認めよう。


 戦術も見事。


 この状況を作り上げた発想力も素晴らしい。


 だが――。


 まだ負けたわけではない。


 「……ふぅ」


 小さく息を吐く。


 焦りは判断を鈍らせる。


 焦燥は視野を狭める。


 今の拙者に必要なのは力任せの突破ではない。


 冷静さでござる。


 突破口は必ず存在する。


 そう信じて目を閉じる。


 すると脳裏に懐かしい声が蘇った。


 ――刀は所詮、借り物の力に過ぎぬ。


 師範。


 あの厳しくも偉大な背中。


 その言葉を聞いた瞬間、胸の奥に沈みかけていた何かが再び燃え始めた。


 そうでござる。


 忘れてはならぬ。


 初任務の時も同じだった。


 武器に頼り。


 刀に頼り。


 己の弱さを誤魔化そうとした。


 だが、その時も師範の教えが拙者を救ってくれたではないか。


 刀は道具。


 武器は手段。


 本当に強い者は武器の優劣で勝敗を決めたりしない。


 それは二流。


 いや、三流以下の考え方だ。


 目指すべきは師範。


 真の剣士。


 木刀だろうが。


 竹刀だろうが。


 素手だろうが。


 全てを己の力へ変える武人。


 「……スゥ」


 息を吸う。


 「……ハァ」


 ゆっくり吐く。


 一度。


 二度。


 三度。


 乱れていた鼓動が落ち着いていく。


 聞こえていた歓声も遠ざかる。


 観客の声も。


 実況の声も。


 全てが背景へと溶けていく。


 今の拙者に必要なのは外の音ではない。


 己の内側を見ること。


 そして敵を見ること。


 静かに目を開く。


 視界の先にはミオ。


 その向こうでは竜巻が回転を続けている。


 ただ漫然と眺めるのではない。


 細部を見る。


 流れを見る。


 動きを見る。


 魔力を見る。


 必ず弱点はある。


 どんな技にも綻びは存在する。


 完璧な技などこの世にはないのだから。


 残された時間は少ない。


 リングの端も近い。


 だが、それで諦める理由にはならぬ。


 むしろ逆境こそ燃える。


 それを乗り越えてこそ武人。


 師範がそうであったように。


 いつか拙者もそう在りたい。


 だから――。


 この程度の窮地で立ち止まっている暇などない。


 「必ず見つけ出してみせるでござるよ……!」


 木刀を握る手に力を込める。


 そして拙者は獲物を狙う鷹のように鋭く目を細め、風の檻の僅かな綻びを探し始めた。

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