第11章ー35
『おーっと!? いきなり凄まじい攻防戦だー!! まるで達人同士の戦いを見ているかのような高度な読み合い!』
『お互いの手の内を理解しているような立ち回りですね。これは勝負の行方が全く読めません』
実況席から興奮した声が響く。
それに呼応するように観客席の熱気もさらに高まっていった。
歓声。
拍手。
期待の眼差し。
まるで会場全体が沸騰しているみたいだった。
……でも。
私自身はそんな風には思えなかった。
たしかに読み合えている。
でも、それは私が凄いからじゃない。
マヒロのことを知っているからだ。
普段から一緒に授業を受けて。
模擬戦もして。
何度も戦う姿を見てきた。
だからこそ分かる。
この人はどんな風に動くのか。
どんな時に踏み込んでくるのか。
もし何も知らない状態だったら――。
たぶん私はもう負けていた。
開始直後のあの踏み込みだけで終わっていたかもしれない。
そう考えると背筋が冷たくなる。
けれど。
今はそんなことを考えている場合じゃない。
過程なんてどうでもいい。
私は勝ちたい。
治癒師だから。
魔法使いだから。
そんな言い訳を抜きにして。
一人の競技者として。
マヒロに勝ちたい。
そのためなら持てる手札は全部使う。
「囲え、四方の木枯らし――」
その時だった。
頭の中で一つの作戦が形になる。
マヒロは今、足を止めている。
接近のタイミングを伺っている状態。
なら今しかない。
今度は逃がさない。
絶対に。
「【四重の防風】!」
魔法陣が展開される。
次の瞬間。
マヒロを中心として四方向から巨大な竜巻が発生した。
轟音を立てながら回転する四本の風柱。
それぞれが壁のように立ち塞がり、瞬く間にマヒロを包囲する。
「ッ!? これは……!」
マヒロの目が見開かれる。
よし。
反応は上々だ。
この魔法は期末試験で使用したものと同系統。
だけど性能は大きく違う。
広範囲を守れる【乱気流の城壁】と違い、防御範囲はかなり狭い。
一人か二人守るのが限界。
その代わり。
防御力だけならこちらが上。
風の密度も。
耐久力も。
圧倒的に高い。
……まあ。
以前使った時は相手が悪すぎた。
オーヴェン先生相手では参考記録にもならない。
あの人、防御魔法を防御魔法として扱わせてくれないんだもん。
でも今回は違う。
相手はマヒロ。
魔妖も使えない。
魔剣もない。
純粋な剣技だけでこの壁を突破するのは簡単じゃないはずだ。
『おやおやおやー!? これはどういうことでしょう!?』
実況席から困惑した声が飛ぶ。
『マヒロ選手の行動を制限することには成功しましたが……』
『ええ。ミオ選手も魔法を維持しなければなりません。このままではお互い膠着状態になってしまいますね』
観客席からもざわめきが広がる。
当然だろう。
客観的に見れば意味不明な行動だ。
敵を閉じ込めた。
でも自分も動けなくなった。
そんな風に見えるはずだから。
だけど。
私は内心で小さく笑う。
引っ掛かった。
皆、この魔法のことを勘違いしている。
もちろん解除したら意味はない。
せっかく拘束したマヒロが自由になるだけ。
その上、大量の魔力を消費して終わり。
そんな馬鹿な真似をするつもりはない。
だけど――。
この魔法の価値は防御力だけじゃない。
まだ誰も気付いていない。
マヒロでさえも。
「……さて」
私は魔力の流れを操作する。
すると四本の竜巻がゆっくりと動き始めた。
最初はわずかに。
だが徐々に。
確実に。
リングの端へ向かって。
『……おっと?』
観客席のざわめきも止まった。
そして実況席から間抜けな声が響く。
「お、おろろ?」
思わず笑いそうになる。
そう。
この【四重の防風】の真価はそこだ。
防御したまま移動できる。
ただ守るための壁じゃない。
相手を閉じ込めたまま運ぶための檻。
つまり――。
私は今。
マヒロごとリングの外へ押し出そうとしていた。




