第11章ー32
「ええっ!?」
思わず大きな声を上げてしまった。
すると先生はビクリと肩を震わせ、耳を塞ぎながら睨んでくる。
「ッ!? うっせーな。廊下で大声なんか出すんじゃねーよ」
「あっ、す、すいません……」
慌てて頭を下げる。
だって仕方ないじゃないか。まさか私にまで大会へ出ろなんて言い出すとは思わなかったのだから。
「え、えっと……なんで私が大会に出ないといけないんですか? 出るならサダメの方が……」
「レールステンにも出るよう言ってある。ついでにお前も出ろってだけだ」
「そ、そんな理由で……?」
どうやら先生は既にサダメにも声を掛けていたらしい。
その流れで私にも話を振っただけ。
……なんだろう。
少しだけ胸の奥がモヤっとした。
サダメが出場する理由は分かる。強いし、先生も期待しているのだろう。実際に補習までしてもらっているわけだし。
でも私は違う。
ただの“ついで”。
そう言われたような気がして、ほんの少しだけ寂しくなった。
そんななか、先生は煙草の煙を吐く。
「……ハァ。お前、治癒師目指してるんだろ?」
「ッ!?」
今度は別の意味で驚かされた。
その話をしたのは入学前、教会で神父様達を説得した時と、入学初日の自己紹介くらいだ。
しかも、その時の先生は二日酔いで教室の隅っこに転がっていたはず。
正直、まともに話なんて聞いていないと思っていた。
……ちゃんと覚えていたんだ。
意外な事実に、少しだけ見直してしまう。
「チヤドール。治癒師にとって一番大事なことは何だ?」
「えっ? え、えーっと……怪我人を一秒でも早く治すこと、とかですか?」
「まあおおむね正解だな」
先生は頷くと、そのまま質問を続ける。
「じゃあ、その怪我人はどこで怪我をすると思う?」
「え……?」
「例えば魔物と戦っている時、誰が一番怪我しやすい?」
「それは……前線で戦っている人、ですか?」
「そうだ」
先生は即答した。
「つまり怪我人ってのは前で戦ってる奴らだ。普通はそいつらを後方まで下げて治癒する」
そこまでは私にも分かる。
治癒師の基本だ。
でも先生はそこで言葉を切り、鋭い目を向けてきた。
「だが、そう簡単にいかねぇ状況もある。複数の魔物に囲まれたり、敵の攻撃が激しかったりな。そういう時、お前はどうする?」
「……」
私は言葉に詰まった。
似たような経験ならある。
あの時は仲間達が必死に守ってくれたから、私は安全な場所から治癒魔法を使うことができた。
でも――。
それは皆が助けてくれたから成立しただけ。
もし助けてくれる人がいなかったら?
もし仲間全員が動けなくなっていたら?
治癒師として、私は何ができるのだろう。
答えを探して考え込む私を見て、先生はふっと鼻で笑った。
「……はっ。そんな難しく考える必要ねぇだろ」
「え?」
予想外の言葉だった。
先生は面倒くさそうに頭を掻きながら言う。
「答えは単純だ」
そして当然のことを言うように続けた。
「魔物を速攻で倒して、怪我人を速攻で治す。それが一番手っ取り早い」




