第11章ー31
「先生!」
「あん?」
学園祭前日の放課後。
校舎の廊下を歩いていた私は、偶然見つけたコールスタッシュ先生に慌てて声を掛けた。
先生は煙草を咥えたまま気だるそうに振り返る。
相変わらずやる気があるのかないのか分からない態度だ。
だけど今はそんなことを気にしている場合じゃない。
私は少しだけ息を整えると、本題を切り出した。
「あの、サダメって今どこにいますか?」
私が先生を呼び止めた理由は単純だった。
サダメを探している。
ただそれだけ。
以前からサダメが放課後に先生の補習授業を受けていることは知っていた。
けれど、どこで何をしているのかまでは聞いていない。
最近は学園祭の準備もあって忙しかったし、私自身も深く聞く機会がなかった。
だからこうして先生本人に聞くのが一番早いと思ったのだ。
「レールステン? あいつに何か用か?」
先生は少しだけ眉を上げた。
その反応に私は思わず肩を跳ねさせる。
「えっ!? い、いえ! そんな大した用事じゃないです!」
慌てて両手を振る。
なんだろう。
別にやましいことなんてないはずなのに、こうして聞かれると妙に恥ずかしい。
「ただ、学園祭前日まで特訓してて大丈夫かなーって思っただけです。それに……」
言いかけて、私は言葉を止めた。
先生が怪訝そうな顔でこちらを見る。
「それに?」
続きを促される。
私は少しだけ視線を逸らした。
本当に大した理由じゃない。
だけど、どうしても気になっていたことがあった。
「最近のサダメ、なんだか思い詰めてるように見えて……」
先生の表情が僅かに変わる。
私は言葉を続けた。
「もちろん授業もちゃんと受けてますし、人の話も聞いてます。いつも通りなんです」
そこは間違いない。
サダメは昔から真面目だ。
やるべきことはきちんとやるし、周りに迷惑を掛けるタイプでもない。
だからこそ余計に気になる。
「でも、時々なんです」
私は小さく呟いた。
「本当に時々なんですけど……苦しそうな顔をしてる時があって」
何かに悩んでいるような。
何かを抱え込んでいるような。
そんな顔。
本人は隠しているつもりなのだろう。
だけど十年以上一緒にいる。
幼い頃からずっと隣にいた。
だから分かってしまう。
ほんの少しの変化でも。
「……」
先生は何も言わない。
ただ黙って私の話を聞いていた。
「だから、一回話を聞いてみようかなって」
もしかしたら余計なお世話かもしれない。
本人が話したくないなら無理に聞くつもりもない。
それでも。
もし一人で抱え込んでいるなら。
少しくらいは力になりたかった。
幼馴染として。
友達として。
そう思っただけだ。
「……なるほどな」
先生は小さく呟いた。
そして数秒考え込むような仕草を見せた後、親指で校舎の外を指差す。
「レールステンなら向こうの体育館だ」
「あっ」
私は思わず顔を明るくした。
先生の指差した先には学園の体育館が見える。
よかった。
教えてもらえなかったら探し回る羽目になるところだった。
この学園、無駄に広いから。
「ありがとうございます!」
私はぺこりと頭を下げる。
これでサダメの所へ行ける。
そう思いながら駆け出そうとした、その時だった。
「チヤドール」
「はい?」
今度は先生が私を呼び止めた。
振り返る。
先生は煙草を咥えたまま、じっとこちらを見ていた。
なんだろう。
サダメに関することだろうか。
それとも何か伝言でもあるのかな。
そう思った次の瞬間。
先生の口から飛び出した言葉は、私の予想を大きく裏切るものだった。
「お前、魔闘祭に出てみろ」




