第11章ー29
『おーっと!?』
ヒューズ先輩が何かに気付いたように声を上げる。
『マヒロ選手、今回は愛刀の魔剣ではない様子だぁー!!』
その言葉に会場のあちこちからざわめきが起こった。
どうやら観客の中にもマヒロの魔剣について知っている者がそれなりにいるらしい。
まあ無理もない。
学園内でも彼女の強さは有名だし、その象徴とも言えるのが魔剣・魔妖だ。
そんな武器を持たずに試合へ現れたのだから注目されるのも当然だった。
『えー、審判団から説明が入りました』
今度はアルク先輩が冷静な口調で補足を始める。
『どうやらマヒロ選手の所有する魔剣は特殊な特性を持っており、大会側が定めた魔力制限に影響を及ぼす可能性があるとのことです』
会場から再びどよめきが起こる。
『そのため運営側の判断により、本大会での使用は禁止となったようです』
『くぅーっ!』
ヒューズ先輩が大袈裟に頭を抱えた。
『伝説の魔剣がどれほどのものか、この目で見てみたかったんだがなぁー!』
『今回ばかりは仕方ありませんね』
アルク先輩が苦笑混じりに返す。
『選手の安全を考慮した結果ですので、ご理解いただければと思います』
「……なるほどな」
自分は小さく呟いた。
ようやく事情が理解できた。
どうやら魔妖の特性そのものが問題だったらしい。
詳しい仕組みまでは分からない。
だが、あの刀が普通の武器ではないことだけは自分にも分かる。
伝説の剣。
それも数少ない本物。
今では見慣れてしまっているが、本来なら国宝級どころでは済まない代物だ。
そんな武器を学園の大会で振り回している方がむしろ異常なのかもしれない。
「まあ、仕方ないか」
魔妖が使えないとなればマヒロにとっては不利になる。
普通ならそう考える。
だが――。
「いや、マヒロだからなぁ……」
思わず苦笑する。
相手がマヒロである以上、その常識はあまり当てにならない。
あいつの場合、魔剣が強いのではない。
使い手が強いのだ。
魔妖を手に入れる前から十分化け物じみた強さを持っていた。
むしろ武器が変わった程度で弱くなる姿が想像できない。
『しかーし!!』
ヒューズ先輩が再び大声を張り上げる。
『彼女の剣技は超・一・流!!』
会場から歓声。
『魔剣なしでも実力は折り紙つきだぁぁぁぁ!!』
観客席も大いに盛り上がっている。
『決して油断できる相手じゃないぜぇぇぇ!!』
その言葉に、自分も内心同意した。
というか油断したら普通に死ぬ。
木刀だからといって安心できる相手ではない。
『そんな彼女に立ちはだかるのは、こちらの選手だぁぁぁ!!』
そして紹介は次の選手へ移る。
スクリーンの映像が切り替わった。
そこに映し出されたのは――。
「ミオ」
自然と名前を呟く。
少し緊張した様子で入場口付近に立つミオの姿が映っていた。
『仲間達を支え続ける癒やしの魔法使い!!』
ヒューズ先輩の紹介が始まる。
『その優しさは誰よりも深く!!』
『その想いは誰よりも強い!!』
画面いっぱいに映し出されたミオは、既に顔を真っ赤にしていた。
まあ無理もない。
あれだけ大勢の観客の前で持ち上げられれば誰だって恥ずかしくなる。
ましてや本人は元々目立つのが得意なタイプではない。
絶対今すぐ逃げ出したいと思っているだろう。
『治癒魔法と風魔法を操るハイブリッドタイプ!!』
『さらに卓越した魔力制御技術!!』
『一見すると後方支援専門の魔法使い!!』
そこでヒューズ先輩が一拍置く。
『――だがぁぁぁぁ!!』
会場が盛り上がる。
『だからといって彼女の実力を侮っちゃ困るぜぇぇぇぇ!!』
「ははっ」
思わず笑ってしまった。
実況としては大袈裟かもしれない。
だが内容そのものは間違っていない。
ミオは支援役だ。
けれど弱くはない。
むしろ同世代の中ではかなり強い部類に入る。
自分達と一緒に数々の修羅場を潜り抜けてきたのだ。
戦う覚悟だって持っている。
『仲間の危機には誰よりも早く駆けつける!!』
『守るべきもののためなら恐怖すら乗り越える!!』
ヒューズ先輩の言葉を聞きながら、自分はこれまでの出来事を思い出していた。
迷宮での戦い。
海辺での戦闘。
期末試験。
どんな時もミオは逃げなかった。
怖くても。
震えていても。
誰かを守るために立ち向かってきた。
だからその評価は間違っていない。
『普段はおっとり穏やか!!』
『しかし覚悟を決めた彼女は誰にも止められない!!』
その頃にはミオの顔は完全に真っ赤になっていた。
耳まで染まっている。
絶対後で恨まれるな、これ。
『その麗しき容姿に秘められた無限の可能性!!』
『仲間達の希望を背負い!!』
『今ここに立つぅぅぅぅぅ!!』
会場が歓声に包まれる。
そして――。
『ソワレル学園が誇る心優しき風の女神!!』
ヒューズ先輩が渾身の声を響かせた。
『ミオ・チヤドーーーーーーールッ!!!!!!』
ドォォォォォン!!
歓声が爆発する。
大勢の観客が拍手を送る中、スクリーンには真っ赤になったミオの姿が大写しになっていた。
当の本人は恥ずかしさのあまり今にも倒れそうな顔をしている。
そんな姿を見て、自分は思わず苦笑した。
緊張しているのは間違いない。
だが――。
ここまで来た以上、もう逃げられない。
いよいよ始まる。
マヒロとミオ。
仲間同士による第一試合が。




