第10章ー80
「ハア……ハア……ハア……」
肺が焼けるように痛い。呼吸をするたびに胸の奥が軋み、視界の端がじわじわと暗く滲んでいく。それでも、俺はなんとか立っていた。
手には、確かな手応えが残っている。
太陽の魔力(仮)――まだ完全に理解しきれていない力だが、それを込めた渾身の一撃は、確実にブラムへと届いた。あの一撃は、間違いなく奴の急所を貫いたはずだ。
吸血鬼族、ブラム・ブラッドフィールド。
あれほどの化け物相手に、ここまでやれたのだ。
――今度こそ、倒した。
そう思った。
「サダメ。無事でござるか?」
背後から、落ち着いた声がかかる。
「ハア……ハア……。ああ……なんとか、な」
振り返れば、そこにはマヒロの姿。多少の汚れや傷はあるものの、致命的な損傷は見当たらない。その姿を見て、胸の奥に張り詰めていたものが、ほんの少しだけ緩んだ。
「マヒロこそ、大丈夫か?」
「うむ。サダメのおかげで、なんとか切り抜けられたでござる。かたじけない」
律儀に頭を下げる彼女に、思わず苦笑が漏れる。
「いや……俺一人じゃ無理だった。マヒロが時間を稼いでくれたからこそだよ」
あの瞬間、彼女がいなければ、俺はあの力に気付くことすらできなかっただろう。
ブラムの弱点を見抜き、そこに全てを叩き込む。
単純だが、極めて困難な一手。
それを成立させられたのは、間違いなくマヒロのおかげだ。
「ありがとう」
自然と、そんな言葉が口をついて出た。
「……う゛……うぅ……」
「ッ!?」
その時だった。
地面に倒れていたはずのブラムから、かすかな呻き声が漏れる。
心臓が、嫌な音を立てた。
まさか――
「……まだ、かよ」
思わず、呟きが漏れる。
あれだけの一撃を叩き込んだはずだ。それでもなお、動くというのか、あの男は。
いや、違う。
あいつは、そういう奴だ。
ここで油断すれば、確実にやられる。
「……仕留める」
低く呟き、俺は再び構えを取る。
呼吸は乱れ、身体は悲鳴を上げている。それでも、ここで止まるわけにはいかない。
確実に、終わらせる。
「……そ、その一滴に力を宿し、その奔流に暴威を宿せ」
「なっ……!?」
次の瞬間、ブラムの口から詠唱が紡がれ始めた。
血に塗れ、倒れたままの状態で。
それでもなお、はっきりとした意思を持って。
「くそ……!」
やはり、まだ終わっていない。
むしろ――ここからが本番だとでも言うのか。
「――纏え。喰らえ……」
「マヒロ!」
即座に叫ぶ。
「二人で、一気に仕留めるぞ!」
もう猶予はない。
あの詠唱を最後まで通させれば、何が起こるか分からない。いや、ろくなことにならないのは確実だ。
だからこそ――今、この瞬間に叩く。
俺は地を蹴り、前へと踏み出そうとした。
その時だった。
「あ……れ……?」
ドクン――
胸の奥で、大きく脈打つ音が響いた。
それは一度きりの鼓動だったはずなのに、やけに鮮明で、やけに重い。
次の瞬間――
視界が、赤く染まった。




