表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生勇者が死ぬまで10000日  作者: 慶名 安
10章 迷宮~血戦編~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

615/630

第10章ー72

 「ッ!? これは……」


 私が印を結び、魔導結界の発動に入った瞬間、ベルダンディーの表情がはっきりと歪んだ。あの男が驚愕を隠しきれない様子を見せるなど、実に珍しい。


 無理もない。この魔法は、奴に一度たりとも見せたことのない奥の手だ。幼き頃、常に先を行く奴の背中を追い、追い付くために積み重ねてきた鍛錬。その果てに辿り着いた、私だけの領域。共に戦う日々の中で使う機会など訪れなかったそれを、まさかこうして奴に向けて解き放つ日が来るとは――皮肉なものだ。あの頃の私が知れば、さぞ複雑な顔をしただろう。


 「森羅万象を巡りし紅き理よ。生命の証、死の契り、幾千の鼓動を呑み込みし河よ――」


 詠唱を紡ぐ。長い。あまりにも長い。だが、それこそがこの魔導結界の代償であり、本質でもある。発動に至るまで、私は完全に無防備となる。両手は印で塞がれ、他の魔法も使えない。戦場においては致命的な隙だ。


 「ふっ……それが使えるとは驚いたよ。だが、完成させるほど甘くはない!」


 やはり来るか。ベルダンディーは迷いなく踏み込み、一直線に私へと迫る。その判断力と速度は流石としか言いようがない。詠唱中の術者を潰す――戦いの基本を、あの男は決して外さない。


 「我が印にて今一度、王座へ、還れ――!」


 詠唱は終盤へ。だが同時に、奴の拳が眼前へと迫る。回避は間に合わない。そう判断した、その瞬間だった。


 ――ガクッ。


 不意に、力の戻りきらぬ膝が崩れた。


 だがそれが、結果的に命を繋ぐ。ベルダンディーの拳は、私の顔面を捉える寸前で軌道を外し、空を裂いた。紙一重。まさしく偶然がもたらした回避。


 ならば、その偶然すら利用する。


 崩れた体勢のまま、私は前へと踏み込み、頭突きを叩き込もうとした。狙いは単純。今の私の顔には、未だ癒えぬ傷がある。流れ続ける血。その血が奴の口腔、あるいは鼻腔に入り込めば――奴は確実に弱る。


 だが、ベルダンディーもまた一流だ。私の意図を瞬時に見抜き、咄嗟に防御へと転じる。その反応速度、判断力……やはり侮れん。


 「流転を拒み、循環を断ち、この地を“血の海”へと書き換えよ――」


 しかし、その防御の一瞬で十分だった。私は僅かに距離を確保し、詠唱を完遂へと導く。


 空気が変わる。世界の色が歪む。私の内に渦巻く血が、外界と共鳴し始める。


 「《滅びの血河、開闢せよ》――!」


 最後の一節を解き放った瞬間、勝利を確信した。


 「【死血の決戦場ヴァンデッド・コロシアム】!!」


 直後――私の背後の壁が脈打つように震え、そこから溢れ出したのは、鮮烈な“赤”。血だ。奔流となって溢れ出したそれは、瞬く間に空間を侵食し、床も壁も、そして空気すらも紅に染め上げていく。


 ここはもはや現実の戦場ではない。血によって再構築された、私の領域。


 逃げ場はない。抗う術も限られる。


 「さあ、決着をつけようか、ベルダンディー」


 この血の闘技場で、どちらが“上”かをな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ