第10章ー71
「ぐあっ!?」
絶縁の言葉を放った、その瞬間だった。
互いに一切の合図もなく、身体が動いていた。
私の宣言を、あの男は“開戦の号令”として即座に理解したのだろう。いや、むしろ——最初からそのつもりでこの場を用意していたに違いない。
だが。
——甘かった。
私は、あまりにも甘く見積もっていた。
ベルダンディーとの決闘。
それは単なる戦いではない。
“最強の男”を越えるということ。
その現実を、私はこの身をもって思い知らされていた。
攻撃は、当たらない。
放つ一撃はすべて見切られ、軽くいなされる。
対して——
奴の攻撃は、ことごとく私を捉える。
「どうした? 最強の一族を作ろうという君が——こんなところで負けるのかい?」
「ぐっ……!」
次の瞬間、視界が歪む。
顔面に叩き込まれた一撃。
衝撃とともに、身体が宙を舞い——背後の岩壁へと叩きつけられた。
鈍い音が、空洞に響く。
「……っ」
息が詰まる。
だが、それ以上に問題なのは——威力だ。
再生能力があるとはいえ、奴の一撃は明らかに規格外だった。
骨が軋み、肉が裂ける感覚が残る。
……鮮血魔法による強化か。
それも、かなりの練度。
だが——それにしても、度が過ぎている。
並の魔物であれば、一撃で肉体ごと吹き飛ぶだろう。
「はあ……」
ため息。
その声音には、明確な失望が滲んでいた。
「我が友人ながら、がっかりだよ。君となら、もう少し楽しめると思っていたんだけどね」
「……」
壁にもたれたまま、顔を上げる。
視界の先には、余裕の表情を浮かべた男。
だが——
その奥にあるのは、退屈。
……あのベルダンディーが。
戦いの最中に、退屈そうな顔をしている。
それが、何よりも屈辱だった。
「……言ったはずだ」
私は、ゆっくりと身体を起こす。
軋む骨を無理やり動かし、立ち上がる。
「貴様と私は——もう、友ではない!」
血に濡れた声で、吐き捨てる。
期待など、いらん。
今さら、何を望む。
私は、ただ——
この男を、倒す。
それだけだ。
「……相変わらず、強情だね」
ベルダンディーは、くつくつと笑った。
「ああ、その通りだ」
私は鼻で笑い返す。
「だから、どうした?」
変えるつもりはない。
この在り方こそが、私だ。
「私は——」
一歩、踏み出す。
足元に血が滴る。
だが、構わない。
「絶対に成し遂げてみせる!」
声を張り上げる。
「最強と謳われた一族の再興を! この手で築き上げてみせる——私の理想を!!」
宣言。
それは、奴に向けたものではない。
己への誓いだ。
折れぬための、楔。
その瞬間——
胸の奥から、熱が込み上げる。
まだ、終わっていない。
勝敗は、まだ決していない。
どちらかの命が尽きるまで——この戦いは続く。
ならば。
ここからだ。
「——魔導結界!!」




