第10章ー69
気が付けば、数十年という歳月が流れていた。
長き眠りから目覚めた私を待っていたのは、驚くほど変わらぬ世界だった。山も、空気も、流れる魔力も——大きな変化は感じられない。
……時間というものは、時に残酷なほど無意味に過ぎ去る。
だが、その停滞の中で一つだけ、確かな変化があった。
ベルダンディーに呼び出されたのだ。
それも、これまでの合流地点ではない。見知らぬ地下空洞——広大で、天井すら見通せぬほどの空間へと連れてこられた。
足音が響く。
わずかな音すら反響し、妙に耳に残る。
人気はない。
気配もない。
ただ、私と——あの男だけがいる。
「……ベルダンディー」
私は歩みを止め、背を向けたままの彼に声をかけた。
「ここまで連れて来ておいて、何も語らぬつもりか? いい加減、用件を話せ」
苛立ちを抑えきれず、声に棘が混じる。
ここに至るまで、奴は一切の説明をしなかった。ただ「話があるから来てくれ」とだけ言い、私をこの場所へ導いた。
理由も、目的も、何一つ明かさぬまま。
理解できない。
いや——理解したくない、というべきか。
「ごめんごめん。ちょっと、大事な話があってね」
ようやくベルダンディーが振り返る。
だが——
違和感。
決定的な“何か”が、いつもの奴とは異なっていた。
軽薄さがない。
あの、場をかき乱すような陽気さが影を潜めている。
代わりにあるのは——妙に穏やかな、落ち着いた声音。
「……大事な話、だと?」
私は眉をひそめる。
「それをするために、わざわざこのような場所に連れてきたというのか?」
広すぎる。
話をするには、不釣り合いなほどに。
逃げ場がない、とでも言いたげな——閉ざされた空間。
「君が寝ている間にさ、僕なりに色々考えてみたんだ」
ベルダンディーは、静かに言葉を紡ぐ。
その一つひとつが、やけに重く感じられた。
「……何の話だ?」
問い返す。
だが、その瞬間——
胸の奥に、言いようのない不安が広がった。
嫌な予感。
それも、ただの予感ではない。
確信に近い何か。
だが——否定する。
あり得ない。
そんなはずはない。
こいつは——ベルダンディーだ。
誰よりも戦いを好み、誰よりも誇り高い、吸血鬼族の体現者。
だからこそ、私は認めた。
だからこそ、信じた。
裏切るなど——
そんなことは、絶対に。
「……」
沈黙が落ちる。
そして——
「僕は、魔王軍に入るよ」
その一言が、放たれた。
——空洞の奥へと、反響する。
何度も、何度も、何度も。
逃げ場のない音として、私の耳に叩きつけられる。




