第10章ー68
私には、生殖器が存在しない。
それは、生まれついての“欠落”だった。
吸血鬼族の中には、例外的に無性生殖が可能な個体も存在する。だが、それはあくまで“女”に限られた特性だ。男である以上、いかに力を持とうと、単独で子を成すことはできない。
つまり——
私は、子孫を残せない。
それだけでも十分に致命的だというのに、加えて私はブラッドフィールド家の一人息子だった。
……皮肉なものだ。
今にして思えば、父が私に対して冷淡であった理由の一端は、そこにあったのかもしれない。血を繋ぐことのできぬ後継。期待する価値すらないと見なされていたのだろう。
だが——
「……」
どうでもいい。
今さらそれで同情する気など、微塵もない。
「はあ……僕達の計画、幸先悪いですなぁ」
隣で、ベルダンディーが大袈裟にため息をついた。
先ほどの話を受けてのことだろう。子を成せない——その事実は、確かに我々の計画において小さくない障害となる。
「構わん」
私は淡々と応じる。
「もとより、長期を見据えた計画だ。今さら一つ二つの問題で揺らぐものではない」
むしろ、想定の範囲内だ。
「焦る必要はない。いずれ、新たな戦力も加わるだろう」
自分に言い聞かせるようでもあり、事実を述べているだけでもある。
だが——
「はっ。第一歩を踏み出すのは、何百年後になることやら」
ベルダンディーは鼻で笑い、肩をすくめた。
……否定はできん。
現実として、その可能性は高い。
耳が痛い話だが、目を背ける理由にもならない。
「……引き続き、戦力の確保は最優先事項とする」
私は話題を切り替えるように言った。
「だが、今すぐに動く必要はない。私は——時が来るまで眠りにつく」
銀鏡の翼龍。
あの存在が回復するまで、時間は必要だ。
ならば、その間に無理に動くよりも、一度時をやり過ごす方が合理的だろう。
「お前はどうする、ベルダンディー?」
問いかけると、彼は顎に手を当て、少し考える素振りを見せた。
「そうだな~……僕はもうちょっと動いてたいかな」
やがて、いつもの調子で答える。
「じっとしてるの苦手だしさ。いろんなとこ回ってみるよ。もしかしたら、面白いものが見つかるかもしれないし!」
……やはりか。
予想通りの返答だった。
「何かあったら起こしてあげるよ~!」
軽く手を振りながら、気楽に言い放つ。
「そうか。なら頼む」
私はそれを受け入れた。
こいつは、止めたところで止まる男ではない。ならば好きにさせて、その代わりに成果を期待する方がいい。
それに——
何かあれば、起こしてくれると言うのなら。
それで十分だ。
私はゆっくりと目を閉じ、意識を沈めていく。
時間を超える眠り。
再び目覚めるその時まで、世界は動き続ける。
その間に、何が起きるかなど——
この時の私は、考えもしなかった。
いや。
考える必要すら、感じていなかったのかもしれない。
だが——
それが、運命の分岐点となる。
そうなることを、この時の私は、まだ知らない。




