第10章ー66
あの夜、私たちが一族を壊滅させてから、数日が経過した。
族長をはじめとする連中の首は、袋に詰めたまま適当な草原の中央へとばら撒いてきた。陽の光が降り注ぐあの場所であれば、いずれ干からび、完全に消滅するだろう。吸血鬼である以上、太陽からは逃れられない。再生の余地すら残さぬ、確実な処分だ。
その後、私たちは近場の洞窟へと身を潜め、日中をやり過ごしていた。
洞窟の奥はひんやりと静まり返り、外界の喧騒など一切届かない。わずかに滴る水音と、自分たちの呼吸だけが空間を満たしている。
……ひとまずは、片が付いた。
そう言って差し支えないだろう。
「ふう。とりあえずやるべきことは終わったけど、これからどうするんだい?」
沈黙を破ったのは、やはりベルダンディーだった。
岩壁に背を預けながら、気楽な調子でこちらに視線を向けてくる。まるで大仕事の後の休憩でも楽しんでいるかのような余裕ぶりだ。
……こいつは、本当に切り替えが早い。
「……」
私はすぐには答えず、少しだけ思考を巡らせる。
これから、私たちは一族を再興する。
だが、その道は平坦ではない。
戦力の確保——それが当面の最優先事項となるが、現実的に考えて、短期間でどうにかなるものではない。あの場にいた女や子供たちが、すぐに戦えるようになるとは到底思えない。
時間が必要だ。
選別も必要だ。
……だからこそ。
「……一つだけ、寄りたい場所がある」
ようやく口を開く。
「寄りたい場所?」
ベルダンディーが首を傾げる。
「ああ。同族ではないが……以前から噂を耳にしていてな。一度、会ってみたいと思っていた存在がいる」
その名を思い浮かべるだけで、わずかに胸がざわつく。
伝承の域を出ない話。
だが、もしそれが真実であれば——
「場合によっては、戦力として取り込める可能性もある」
言いながらも、それがどれほど困難かは理解している。
相手は、ただの魔物ではない。
それでも——試す価値はある。
「その確認のため、数日ほど単独で動こうと思う。構わんか?」
問いかけると、ベルダンディーは少しだけ考える素振りを見せた後、あっさりと頷いた。
「ん~、別にいいよ。僕も僕で、あちこち回ってみようかな。ワンチャン、新しい我らの同胞が生まれてるかもしれないし」
「……ああ。それも一つの手だな」
互いに、やるべきことはある。
無理に行動を共にする必要はない。
それぞれが最善と思う動きを取るべきだ。
「では、数日後——この場所で落ち合うとしよう」
「え? ダンディーかだって? そうさ! なんたって私の名は——ベルダンディーーーーー!!!!」
「……」
……やはりか。
またしても妙な聞き違いをし、例の如く大仰な名乗りを上げる。
いい加減、慣れたとはいえ——
こいつ、“ダンディー”という言葉の意味を本当に理解しているのか?
いや、していないだろうな。
ただ単に、自分の名前にそれらしき響きが含まれているから気に入っている——それだけのような気がしてならない。
……まあ、今さら指摘する気もないが。
私は小さく息を吐き、立ち上がる。
進むべき道は、すでに決まっている。
洞窟の外へと足を踏み出しながら、私は目的地を思い描く。
伝説の龍が眠るとされる迷宮。
その最奥に棲まう存在——
銀鏡の翼龍。
もし噂が真実であれば、これ以上ない戦力となる。
だが同時に——
下手をすれば、命を落とす危険もある。
……それでも構わん。
強さを求めるのであれば、避けては通れぬ道だ。
私は闇の中を進みながら、静かに決意を固めた。
新たな一族の礎を築くために。
その第一歩を、今——踏み出す。




