第10章ー65
「お? 終わったかい?」
城門を抜けた瞬間、気の抜けた声が飛んできた。
「ああ。私の方は問題ない。そっちはどうだ?」
視線を向けると、ベルダンディーが片手に大きな袋を提げて立っていた。袋は不自然に膨らみ、ずっしりと重みを主張している。中身を問うまでもない——先ほどまで同胞だった者たちの首だ。
「うん。あとは君の言葉次第、ってところかな?」
軽く肩をすくめるその様子に、私はわずかに眉を顰めた。
……早い。
私も決して時間をかけたつもりはない。だが、それでもなお、この男の仕事の速さは異常だ。手際がいい、という言葉で片付けていい域を超えている。
正直、少しばかり気味が悪い。
だが——今はそれを気にしている場合ではない。
視線を前方へと移す。
城の入口付近には、十数人ほどの影が集まっていた。女と子供たちだ。
……当然か。
あれだけ派手にやれば、気にもなるだろう。中の様子を確かめたいという衝動もあったはずだ。
だが、彼女らは中へは入らなかった。
いや、入れなかったのだろう。
恐怖。
巻き込まれることへの本能的な拒絶。
その結果として、こうして外で様子を窺うことしかできなかった。
そして今——
彼女らは、こちらを見ている。
怯えた目で。
無理もない。
私たちの衣服には、まだ乾ききらぬ血が付着している。返り血だ。戦いの痕跡が、隠しようもなく残っている。
その姿を見れば、何があったのかなど、説明するまでもない。
……弱者。
内心でそう断じる。
戦う力も、踏み込む覚悟もない。
やろうと思えば、今すぐにでも全滅させられる。
だが——
私は小さく息を吐いた。
……面倒だ。
これ以上、荷物を増やす必要はない。時間的にも、日が昇る前にはこの場を離れたい。
それに——
子供。
まだ、未知数だ。
鍛えれば、あるいは。
ならば。
ここで終わらせるよりも——試してみるのも悪くない。
「皆の者、心して聞け!」
私は一歩前に出て、声を張り上げた。
ざわめきが止まる。
全員の視線が、こちらへと集まる。
「長と男どもは、すでに我らが始末した!」
動揺が走る。
だが、構わず続ける。
「我々はこれより、一族の再興を目指す!」
言葉に、意志を乗せる。
「弱者は要らぬ! だが——力を示す覚悟があるならば、話は別だ!」
わずかに、間を置く。
「今でなくともよい。いずれ、再び我らと相まみえた時——その力をもって一族に必要と認められれば、その時は迎え入れてやろう!」
視線を一人ひとりへと向ける。
恐怖に震える者。
歯を食いしばる者。
ただ呆然と立ち尽くす者。
反応は様々だ。
「それまでの間——せいぜい足掻け」
低く、言い放つ。
「貴様らが、あの愚者どもと同じく臆病風に吹かれ、怠惰に堕ちることなく、生き残ることを祈っている」
静寂が落ちた。
言うべきことは、すべて言った。
「……ってなわけで、んじゃ、まったね~!」
その空気を破るように、ベルダンディーがひらひらと手を振る。
……締まらん男だ。
だが、それでいい。
私は背を向ける。
振り返ることなく、歩き出す。
隣には、相変わらず軽い足取りの男。
背後には、何も言えずに立ち尽くす者たち。
これでいい。
あとは——彼女ら次第だ。
いずれ。
この中から、牙を持つ者が現れるかもしれない。
その時が来ることを——ほんの僅かに、期待しながら。
私は、夜の闇へと歩みを進めた。




