第10章ー63
「うっ……うぅ……」
呻き声が、そこかしこから漏れていた。
だが、それはもはや戦いの音ではない。敗者が絞り出す、終わりの音だ。
気がつけば、数の上では依然としてこちらが劣勢だったはずの状況は、完全に覆っていた。いや、正確には——覆るどころか、すでに決着がつきかけている。
床に転がる屍の数が、それを如実に物語っていた。
……話にならんな。
内心で冷たく断じる。
所詮は寄せ集めの有象無象。多少腕が立とうと、連携も覚悟も中途半端では意味がない。こちらと比べること自体がおこがましい。
ベルダンディー一人で、百人力——いや、誇張抜きに千人力と言っても差し支えないだろう。
実際、彼が動くたびに、確実に数が減っていく。
時間稼ぎにすらならない。
「うお゛ぉ゛っ!!」
突如として響いた咆哮に、思考を引き戻される。
「ッ!?」
視線を向けた先——父が、こちらへと突進してきていた。
族長の傍らで傍観していたはずの男が、今や形相を歪め、血走った目で私を睨みつけている。
だが——
遅い。
荒い。
雑だ。
迫る拳を、私は軽く身を捻るだけで躱す。
風を切る音だけが虚しく残った。
……らしくないな。
父も、それなりに実戦経験はあるはずだ。冷静であれば、もう少しまともな動きはできたはずだが——今は見る影もない。
完全に、乱心している。
無理もないか。
あれだけの戦力差を誇っていたはずが、今や残っているのは——父と族長、そして。
視線の端に映る、もう一人。
祖父。
彼は最初から一歩も動かず、椅子に腰掛けたまま、この惨状をただ見ている。
……何を考えている。
理解できない。
だが、今はどうでもいい。
「この愚息め! よくも私に恥をかかせてくれたな!?」
父が怒声を上げる。
「この落とし前、貴様らの命だけでは足りぬぞ!?」
……恥、か。
呆れを通り越して、もはや感心すら覚える。
ここまで来て、なお己の体面か。
どこまでも、自分本位な男だ。
「その言葉、そっくりそのまま返そう」
私は一歩も引かず、真正面から言い返す。
「我ら吸血鬼族の面を汚し、堕落へと導こうとした貴様らの罪——その命ごときで、到底償えるものではない!」
「なっ……!?」
父の顔が歪む。
だが、これは紛れもない事実だ。
元を正せば、すべては族長——そして、それに従ったこいつらの選択が招いた結果。
その責を、私に押し付けるなど筋違いも甚だしい。
仮にこの場の連中を全て殺したところで、失われた誇りが戻るわけではない。
ならば——
いっそ、すべてを断ち切るしかない。
……その方が、まだ救いがある。
「……ブラムゥゥゥゥゥ!!」
私の言葉が引き金となったのか、父の怒りは頂点に達した。
再び、こちらへと飛びかかってくる。
殺意は濃い。
だが——
単純すぎる。
直線的で、読みやすい。
避けるまでもない。
「——【血矢】」
静かに呟き、人差し指をわずかに前へと向ける。
次の瞬間。
血が、収束し——矢となる。
放たれたそれは、一切の無駄なく、一直線に父の眉間へと突き進み。
「がっ——!?」
貫いた。
一瞬だった。
反応する暇すら与えない、完全な一撃。
脳へと異質な血が流れ込めば、もはや再生など望めない。拒絶反応がすべてを狂わせる。
結果は明白。
父の身体は、その場で力を失い、崩れ落ちた。
呆気ないものだ。
あれほど吠えていた男の最期が、これとは。
……終わりか。
視線を外し、前を見る。
残るは——二人。




