第10章ー62
「がはっ!?」
「ぐはっ!?」
「ぶはっ!?」
断末魔が、立て続けに響いた。
「ほい、ほい、ほーい!」
それに被さるように、場違いなほど軽快な声。ベルダンディーのものだ。
「なっ……!?」
驚愕に歪む声が、どこからともなく漏れる。
数分後——城内は、赤に染まっていた。
だが、その血は私たちのものではない。
守備隊のものだ。
気がつけば、先ほどまで十人以上はいたはずの連中が、半数以下にまで減っていた。床には転がる胴体と、首。壁には飛び散った血飛沫。鉄の臭いが濃く漂い、空気そのものが粘ついているかのようだ。
……やはりな。
視線の先で躍動する男を見据えながら、私は内心で呟く。
今日のベルダンディーは、異様なほどに冴えている。
もともと、こいつの戦闘力は突出している。歴代の吸血鬼族の中でも群を抜いていると言っていい。魔物、人間——その双方を相手にした討伐数は、すでに三桁など軽く超えているだろう。いや、そろそろ四桁に届いていても不思議ではない。
私は何度か、こいつの狩りに付き合わされたことがある。
そのおかげで、戦闘経験だけならそれなりに積んできた。
だからこそ、理解できる。
ベルダンディーは——規格外だ。
動きに無駄がない。いや、無駄がないというよりも、すべてが“遊び”の延長に見える。敵の攻撃を紙一重で躱し、その流れのまま首を刎ねる。その一連の動作に、迷いも躊躇も存在しない。
むしろ——楽しんでいる。
そうとしか思えないほどに、軽やかだ。
まるで戦うために生まれてきた存在。
今この瞬間も、彼は愉快そうに守備隊の一人へと踏み込み、何の躊躇もなく首を刎ねた。宙を舞ったそれは、先ほどのゴブリンと同じように、円卓や床へと転がっていく。
だが——
転がった首たちは、すぐには再生しない。
断面からは血が滲み、苦悶に歪んだ表情が貼り付いたまま、わずかに痙攣している。
屈強な男たちが見せる、焦りと恐怖。
……滑稽だな。
その理由は明白だ。
吸血鬼族の弱点は、太陽だけではない。
もう一つ——同族の血。
我らの血は、同じ種でありながら、互いを受け入れない。戦闘民族として進化した代償か、血が混じり合えば拒絶反応を起こし、循環が乱れる。
結果、どうなるか。
血の制御が利かなくなる。
鮮血魔法は使えない。
そして——再生能力が鈍る。
ベルダンディーは、それを熟知している。
的確に血を浴びせ、相手の再生を阻害する。単純な力任せではない。知識と技術が合わさって、初めて成立する殺し方だ。
この状態では、奴らが元に戻るまでには相当な時間を要するだろう。
……気にする必要はないな。
戦線から外れたも同然だ。
「ぐっ……!? 貴様ら……」
ふと、視線の先で族長が呻く。
先ほどまで愉悦に浸っていた顔は、見る影もない。血の気が引き、青白くなっている。
……これもまた、滑稽だ。
「ええい! 何をしておる?! お前達も加勢せぬか!」
焦燥に駆られた声が飛ぶ。
その矛先は——周囲で成り行きを見守っていた連中へと向けられた。
「えっ!? 我々もですか?!」
当然の反応だ。
彼らはあくまで会合の参加者であり、いきなり命を賭けろと言われて、即座に動けるはずもない。
だが——
「私の命令が聞けぬとどうなるか、分かっておるな?」
族長の一言が、その迷いを断ち切る。
圧。
絶対的な上下関係を前提とした、支配の力。
「ッ……!」
誰もが息を呑む。
……恥知らずが。
内心で吐き捨てる。
長としての権限を、ここまで露骨に振りかざすとは。誇りも何もあったものではない。
「さっさとやれ! 二人を殺せば、たんまりと褒美をくれてやる!! よいな!?」
さらに追い打ちをかけるように、餌をぶら下げる。
恐怖と欲望。
その両方で縛り上げるやり方。
……どこまでも堕ちたものだ。
「は、はい!!」
やがて、男たちは覚悟を決めたのか、あるいは決めさせられたのか。
ぎこちない動きで、しかし確実に、こちらへと歩み出てくる。
私とベルダンディーの前に、壁を作るように立ちはだかった。
その目には、恐怖と躊躇が色濃く残っている。
……哀れだな。
だが。
それでも——敵であることに変わりはない。




