表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生勇者が死ぬまで10000日  作者: 慶名 安
10章 迷宮~血戦編~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

603/630

第10章ー60

 「いつにも増して見事な腕前だな。流石だ」


 円卓の中央に転がるゴブリンの生首を一瞥し、私は率直な感想を口にした。皮肉でも嫌味でもない。純粋な評価だ。


 「でしょ~? 今日は調子よかったみたいだ。これなら、あと数分は持つだろうね」


 ベルダンディーは相変わらずの軽さで応じる。まるで些細な余興でも披露したかのような口ぶりだが、その実、やっていることは常軌を逸している。


 本来、魔物は死ねばその肉体を保つことはできない。核を失った時点で存在を維持できず、霧散する。それがこの世界の理だ。


 だが、ベルダンディーは例外だ。


 鮮血魔法——血を媒介とするその異質な術式を極めた彼は、死体の一部を一時的にこの世へ繋ぎ止めることができる。理屈は聞いたことがあるが、理解には至っていない。


 正直、私には到底真似できる領域ではない。


 そもそも、あそこまで精緻に血を操れる者など、この一族でも彼くらいのものだろう。もっとも、維持できる時間は本人の状態に依存するらしく、今のように「あと数分」と軽く言えるのは、調子が良い証拠なのだろうが。


 一見すれば、無意味な曲芸に近い。


 だが——こうして実物を突きつけられれば、その評価は一変する。


 視覚的な威圧。現実を突きつける証明。言葉よりも雄弁に、状況を語る材料。


 少なくとも今、この場においては、これ以上なく効果的だった。


 事実、それによって——


 「……ベルダンディー。貴様、よくも……」


 族長の“化けの皮”は、見事に剥がれ落ちた。


 怒りと焦燥が入り混じった表情で、彼は身体を震わせながらこちらを睨みつけている。先ほどまでの余裕は跡形もない。計画が崩れたのだ。無理もない。


 今回の一件で、この男は魔王軍からの信頼を大きく損なったはずだ。少なくとも、しばらくの間は接触すら叶わないだろう。使いとして送り込まれた魔物を、こうして無残な形で失ったのだから当然だ。


 信頼とは、一度崩れれば容易には戻らない。


 ましてや、相手が魔王軍ともなれば尚更だ。


 ……自業自得だな。


 胸中で冷ややかに断じながら、私は視線を隣へと移した。


 「なあ、ベルダンディー。今回の議題、貴様はどう考える?」


 あのゴブリンを始末したのは、あくまで偶然のはずだ。彼が族長の思惑を知った上で動いたとは考えにくい。だからこそ、確認しておく必要があった。


 この場において、彼がどういう立場を取るのか。


 「魔王軍に与するって話だっけ? うーん……そうだね」


 いつもの調子で返しつつも、ベルダンディーはわずかに視線を落とし、思考を巡らせる。軽薄に見えて、その実、要所ではきちんと考える男だ。


 そして——


 「僕も、やっぱ反対かな」


 あっさりと、だが迷いなく答えた。


 ……やはりな。


 内心で頷く。予想通りの答えだった。


 ベルダンディーは、この場にいる誰よりも“吸血鬼族らしい”男だ。誇りを重んじ、束縛を嫌い、力で道を切り開く。その在り方は、良くも悪くも純粋だ。


 だからこそ、他者の傘下に入るなどという選択を、受け入れるはずがない。


 「き、貴様らが反対したとて、決定権は私にある! 結論は覆らん!」


 族長が声を荒げる。余裕を失った声音。だが、それでもなお引き下がる気はないらしい。


 「今回は一足遅かったが、奴等に取り繕う術はまだある。……二人とも、私に従えば今回の無礼、水に流してやっても構わんぞ?」


 ……懐柔か。


 いや、半ば脅しだな。


 言外に含まれた意味は明白だ。


 ——従わなければ、どうなるか分かっているな?


 その圧が、空気を通してひしひしと伝わってくる。


 ふと、横から突き刺さるような視線を感じた。


 父——グロスだ。


 その目には、もはや情など欠片もない。ただの敵を見るそれだ。血の繋がりなど関係ないと言わんばかりの、露骨な殺意。


 ……大したものだ。


 実の息子にここまで敵意を向けられるとは、ある意味では感心すら覚える。


 だが——それで怯む理由にはならない。


 私はゆっくりと、ベルダンディーへと視線を向けた。


 彼もまた、同じようにこちらを見ている。


 言葉は交わさない。


 だが、それで十分だった。


 考えていることは同じだと、理解できる。


 迷いはない。


 「「断る!!」」


 次の瞬間、私たちの声は、寸分違わず重なった。


 それが、答えだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ