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転生勇者が死ぬまで10000日  作者: 慶名 安
10章 迷宮~血戦編~

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第10章ー55

 「ぶはっ!?」


 口から大量の血が噴き出した。


 喉の奥が焼けるように痛む。肺の奥から押し出されるようにして血が溢れ出し、とめどなく地面へと滴り落ちていく。


 ……傷が、癒えない。


 小僧から受けたあの一撃。

 魔導結界が発動しているにも拘わらず、その傷が、いまだに塞がる気配を見せない。


 それどころか――


 じわじわと、この身体を内側から溶かしているような感覚すらある。魔導結界とはいえ、私の魔力、即ち吸血鬼族の魔力が備わっているゆえ、拒否反応を起こしているようだ。


 太陽の魔力。


 あの忌まわしい力が、今もなお私の肉体を蝕み続けているのだ。


 「くっ……」


 歯を食いしばる。


 あの一撃をまともに受けてしまった。


 避けることも、防ぐこともできなかった。


 あれは、我ながら最悪の失態だった。


 口元から血が滴り落ちる。


 いや、滴るなどという量ではない。


 どばどばと流れ落ちている。


 まるで身体の中にある血がすべて流れ出てしまうのではないかと思えるほどだ。


 だが。


 それがどれほどの量なのかは分からない。


 この空間は魔導結界の内側。


 流れ落ちた血は地面の血と同化してしまい、境界が分からなくなっている。


 自分がどれほどの血を失ったのか。


 それすら、把握できない。


 「……っ」


 視界が揺れる。


 いや、ぼやけている。


 焦点が定まらない。


 遠くにいるはずのあの小僧たちの姿も、はっきりとは見えなかった。


 どんな顔をしているのかも分からない。


 勝利の笑みか。


 安堵の表情か。


 あるいは――


 まだ警戒しているのか。


 何も分からない。


 ……だが。


 あの一撃を放った小僧も、ただでは済まないはずだ。


 あれほどの力。


 身体への反動がないわけがない。


 おそらく、あの小僧も今頃は満身創痍だろう。


 それを確認することすら、今の私にはできない。


 視界は霞み。


 身体は動かない。


 そして――


 「……そうか」


 私は理解した。


 死だ。


 今、この瞬間。


 私の命の灯火が、静かに消えかけている。


 こんなところで。


 私は、死ぬのか。


 「……馬鹿な」


 あんな餓鬼どもに。


 あの程度の小僧に。


 この私が――


 敗れるというのか。


 「……く、っそ」


 口の端から血が零れる。


 それと同時に、胸の奥から込み上げてきたものがあった。


 悔しさ。


 屈辱。


 それらが、血と一緒に吐き出されていくようだった。


 だが。


 悔しい理由は、それだけではない。


 私には――


 野望があった。


 長年、胸の奥に抱き続けてきた野望。


 そのために、私は多くの時間を費やした。


 多くの犠牲も払った。


 ……いや。


 それだけではない。


 私は、その野望のために。


 「あんなこと」までしたのだ。


 それなのに。


 その野望は、まだ何一つ果たされていない。


 志半ば。


 いや、それ以前だ。


 何も成し遂げていない。


 それどころか――


 小虫のような小僧一人に敗れ、ここで死のうとしている。


 「ぐほっ!?」


 再び血を吐いた。


 どろりとした血塊が口から溢れ、地面に落ちる。


 気づけば。


 私は、信じられない量の血を流していた。


 これほど吐き出して、まだ生きているのが不思議なくらいだ。


 もしかすると。


 もう、身体の中の血などほとんど残っていないのではないか。


 そんな錯覚すら覚えるほどだった。


 ……くそ。


 まだ終われない。


 私はまだ――


 やらなければならないことがある。


 こんなところで死ぬなど――


 「……御免だ」


 そう思った、その瞬間。


 ―――――もう終わりかい?


 「ッ!?」


 突然。


 頭の奥に、声が響いた。


 聞き覚えのある声。


 あまりにも、懐かしい声。


 思わず息が詰まる。


 ……空耳か?


 いや。


 それとも、走馬灯か。


 死の間際、人は過去の記憶を見るという。


 その一種なのかもしれない。


 だが――


 その声の主が、この場にいるはずがない。


 いるわけがないのだ。


 ―――――ブラム。君ならまだやれるんじゃないのか?


 「……き、さま……」


 再び声が響く。


 確かに聞こえた。


 幻ではない。


 私はゆっくりと顔を上げた。


 ぼやけた視界のまま、声のした方向を見る。


 霞んだ世界の中。


 そこに――


 一人の男が立っていた。


 輪郭だけが、かろうじて見える。


 だが、その姿は。


 間違いなく――


 私の知る男だった。

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