第10章ー54
我ら吸血鬼族は、この世に存在するあらゆる生物の中でも、無類の強さを誇る種族であった。
不死に等しい再生能力。
血を操る鮮血魔法。
その魔法は近距離の戦闘だけでなく、中距離、さらには遠距離の攻撃にまで対応できる万能の力を有している。
加えて、元より備わっている身体能力も他種族とは比較にならぬほど高い。
速度。
膂力。
耐久力。
そのすべてが、人間などとは別次元に位置している。
我らが戦場に立てば、そこにいる敵はただ蹂躙されるのみ。
事実、これまで多くの種族が我らに挑み、そして滅びていった。
それほどまでに、我ら吸血鬼族は強大な存在だった。
その力は、あの魔王軍ですら軽々しく敵対できないほど。
奴らとて理解していたのだ。
正面から我らと対峙すれば、ただでは済まないということを。
だからこそ、奴らは我らを刺激しないよう距離を保っていた。
魔族であろうと、人間であろうと。
すべての種族が、我ら吸血鬼族に対して一定の畏怖を抱いていたのである。
――だが。
そんな我らにも、唯一の弱点が存在する。
太陽。
この世界に存在するものは、すべて魔力を宿している。
草木も。
水も。
空気ですら。
例外はない。
もちろん、天に輝く陽の光にも微量ながら魔力が宿っている。
そして。
その魔力こそが、我ら吸血鬼族にとっての天敵であった。
我らは強い。
あまりにも強すぎた。
その代償なのか――
太陽の魔力を浴びると、我らは本来の力を著しく削がれてしまう。
身体は焼かれ。
再生能力は鈍り。
最悪の場合、そのまま死に至ることすらある。
それほどまでに、太陽は我らにとって絶対的な弱点だった。
だからこそ、我らの活動時間は夜に限られる。
太陽が完全に沈み、世界が闇に包まれた時間帯。
その時だけが、我らの領域。
闇こそが、我らの支配する世界なのだ。
だが――
その事実が判明したのは、今から数百年前のこと。
まだ誰も、自分たちが日光に弱いとは知らなかった時代。
一人の同胞が、人類を殺し尽くそうと昼間に行動した。
当然の結果だった。
その者は、太陽の光に焼かれ――
灰となって消えた。
それが、我らが初めて太陽の弱点を知った瞬間だった。
それ以来、長き年月の中で多くの研究が行われた。
太陽への耐性を得る方法。
その弱点を克服する術。
数多の吸血鬼が、それを追い求めた。
だが。
今日に至るまで、その方法は一つとして見つかっていない。
そして、さらに状況を悪化させた存在が現れた。
――勇者。
その人間は、太陽と同質の魔力を宿していた。
太陽と同じ力。
それはつまり、我らの天敵そのもの。
勇者が現れてからというもの、多くの同胞がその手によって屠られた。
圧倒的な再生能力も、太陽の力の前では意味を成さない。
我ら吸血鬼族にとって、勇者とはまさに災厄そのものだった。
新たな脅威の誕生。
それが、勇者という存在だったのだ。
だが――
それも、すでに過去の話。
勇者の血は時代とともに薄れていった。
代を重ねるごとに、その力は弱まり。
やがて、太陽の魔力を完全に扱える者は消えた。
今の時代、我らの脅威となり得る勇者は存在しない。
そう言っても過言ではない。
十年ほど前に姿を消したという勇者。
仮にその者が生きていたとしても、我らの脅威にはなり得なかっただろう。
そう。
私はそう考えていた。
だが――
その認識は、今まさに打ち砕かれようとしている。
あの小僧によって。
勇者ほどの力ではない。
あの頃の勇者に比べれば、まだ未熟だ。
だが。
確かに感じた。
あの拳から。
あの光から。
勇者ですら及ばぬほど弱いはずの小僧から――
確かに。
太陽の魔力を。




