第10章ー53
「はああああああっ!!!」
耳を裂くような咆哮。
その直後――
「ぶっ?!」
衝撃が、私の顔面を貫いた。
理解するよりも先に、視界が激しく揺れる。
――二度目だ。
あの小僧の拳を、まともに顔で受けてしまった。
しかし。
今の一撃は、先ほどのものとはまるで違う。
威力が桁違いだ。
ただの打撃ではない。
拳が触れた瞬間、爆発するような衝撃とともに、凄まじい光が弾けた。
眩い。
それはただの光ではない。
その奥に、耐え難いほどの熱を孕んでいる。
全身を焼き尽くすような――忌々しい熱。
その光景を目にした瞬間、私は本能的に理解していた。
――嫌な予感がする、と。
だが。
理解したところで、どうにもならなかった。
あまりにも速い。
小僧の動きは、先ほどまでとは別人のようだった。
反応する暇もない。
回避も、防御も。
何一つ間に合わなかった。
「ぶはっ!?」
次の瞬間、私の身体は宙を舞っていた。
拳の衝撃によって吹き飛ばされている。
だが、これもさきほどとは比較にならない。
速度が違う。
重さが違う。
まるで巨大な砲弾にでも撃ち抜かれたかのようだ。
ドォォンッ!!
背中から壁へと叩きつけられる。
石壁が激しく砕け、衝撃が内部へと突き抜けた。
外側からの衝撃だけではない。
その衝撃が身体の内側で何倍にも膨れ上がり、骨と臓腑を容赦なく破壊していく。
「がっ……あぁ……」
口から声が漏れる。
同時に、喉の奥から熱い液体が込み上げてきた。
「ごふっ……!」
吐き出されたのは、大量の血塊だった。
呼吸が乱れる。
胸が軋む。
内臓が焼けるように痛む。
「……っ」
全身に激痛が走る。
外側も、内側も。
まるで身体のすべてが砕けてしまったかのようだ。
これほどのダメージを受けたのは――
生まれて初めてかもしれない。
吸血鬼として長い時を生きてきた。
数えきれぬほどの戦いを潜り抜けてきた。
だが。
十数年ほどしか生きていないはずの小童に、ここまで追い詰められるとは。
警戒はしていた。
あの最初の一撃を受けた時点で理解していたのだ。
この小僧は危険だ、と。
ただの人間ではない。
放置しておけば、後々必ず厄介になる。
だからこそ、決めていた。
あの小娘との戦いに早々にケリをつけ、その後で小僧を始末する。
それが最善だと判断した。
だが――
結果はこの有様だ。
「うっ……うぅ……」
血が止まらない。
口からも、身体のあちこちからも、止め処なく流れ出ている。
顔面の感覚もおかしい。
触れるまでもなく理解できた。
顔の一部が――欠損している。
皮膚も、肉も。
骨すらも。
それほどの威力だった。
だが。
本来ならば、問題にはならない。
我ら吸血鬼族にとって、この程度の損傷は致命傷ではない。
どれほど肉体を破壊されようと、時間さえあれば再生できる。
それが我らの強みだ。
しかし――
「……」
再生が、始まらない。
いつもなら、すでに肉が蠢き、骨が組み上がり、元の姿へと戻っているはず。
だが。
今回は違う。
欠損した部分は、ただ焼け爛れたままだった。
まるで、再生そのものを拒絶されているかのように。
「……そう、か」
その理由は、すぐに理解できた。
あの光。
あの熱。
そして、あの魔力。
間違いない。
「あの、小僧……」
歯を食いしばる。
我ら吸血鬼族にとって、唯一の弱点。
それは――
太陽。
あの光は、それと同じ性質を持っていた。
太陽の魔力。
それが、あの小僧の拳に込められていたのだ。




