第10章ー51
「くっ……!?」
思わず歯を食いしばる。
拙者はこれまで、あらゆる手段を使って時間を稼いできた。
体術、剣術、毒、攪乱。使えるものはすべて使った。
しかし――
それも、ついに限界を迎えてしまった。
まさか、痺れ毒をあのような方法で解毒するとは。
吸血鬼族。
その異常な生命力と再生能力は理解していたつもりだった。
だが、実際に相対すると、その常識は軽々と覆される。
血を入れ替えることで毒を無効化するなど、常人には到底思いつかぬ芸当だ。
「さて……」
ブラムは、余裕の笑みを浮かべながらこちらを見下ろす。
まるで戦いを楽しんでいるかのような、冷たい視線。
「そろそろ、貴様との戯れも終いにしようか」
「……」
その言葉に、胸の奥が強くざわめいた。
戯れ。
つまり――
これまでの戦いは、すべて遊びだったということか。
拙者は全力で戦っていた。
持てる技も策も、すべて出し尽くした。
それでも。
あやつにとっては、ただの余興に過ぎなかったというのか。
なんという屈辱。
刀を握る手に、自然と力がこもる。
だが――
同時に、理解もしていた。
力量差は歴然。
ここまで戦っておきながら、あやつに致命傷を一つも与えられていない。
その事実が、すべてを物語っている。
悔しい。
だが、これが現実。
今まさに、その現実を突きつけられていた。
「……まだでござる」
それでも、拙者は小さく呟いた。
「なに?」
ブラムが眉をわずかに動かす。
だが、拙者は目を逸らさない。
絶望するわけにはいかぬ。
サダメがいる。
ミオがいる。
皆がいる。
拙者がここで折れる道理など、どこにもない。
たとえ――
この命が尽きようとも。
最後まで抗う。
武人として、それだけは譲れぬ。
「抜刀!」
拙者はそう叫び、刀を鞘へと収めた。
そして、静かに構える。
この技は――奥の手。
魔妖の力の中でも、最強格に匹敵する能力。
しかし、その代償はあまりにも大きい。
強力すぎるがゆえに、使用者にも凄まじい反動が返ってくる。
その危険性ゆえ、師範からは固く禁じられていた。
――その反動は、世界を変えかねない。
そう言われたほどの技。
だが。
それでも。
今ここで使わなければ、きっと後悔する。
そう思った。
躊躇いはなかった。
たとえ世界が変わろうとも。
その時は、拙者が守ればいい。
仲間たちを。
この場所を。
すべてを。
「ぬ……」
呼吸を整え、刀の柄に手をかける。
あとは抜くだけ。
その瞬間。
背後から、強烈な気配を感じた。
「……!」
反射的に、背筋が震える。
何者だ。
この気配は――
「貴様!?」
ブラムも同時に気づいたらしい。
拙者は反射的に振り返った。
ブラムの視線も、拙者の背後へと向けられている。
そこにいたのは――
「サダメ?!」
思わず声が漏れた。
確かに、そこにいたのはサダメだった。
だが――
様子が明らかにおかしい。
全身が、眩い光に包まれている。
それは神々しいほどの輝きでありながら、同時に猛々しい熱を帯びていた。
燃え上がる光。
圧倒的な存在感。
まるで――
太陽が、そのまま人の形を取ったかのようだった。
そのサダメが、一直線にこちらへ跳び込んでくる。
凄まじい速度で。
そして――
「――【燦光爆拳】ォォォ!!!」
咆哮と共に。
光熱をまとった拳が、ブラムの顔面目掛けて振り抜かれた。




