第10章ー50
「はあ……はあ……」
呼吸が荒い。
胸の奥から熱が込み上げてくる。いや、込み上げてくるという表現では足りない。身体の内側で何かが燃え続けているような、そんな異様な感覚だった。
皮膚の表面が焼けるように熱い。
滴り落ちた汗が地面に触れた瞬間――
ジューッ、と小さく焼ける音が聞こえた。
思わず視線を落とす。
もしここが氷の床だったら、間違いなく一瞬で溶けていたはずだ。下手をすれば、そのまま床を溶かして落下していたかもしれない。
それほどまでに、今の俺の身体は熱を帯びていた。
「……これが、俺の太陽……なのか?」
あまりの熱さと、身体に起きている異常な感覚に耐えながら、ふと自分の両手を見下ろす。
その瞬間、思わず息を呑んだ。
俺の身体が――
眩く光り輝いていた。
さっき、目を閉じている時に「開けたら眩しくて見えないかもしれない」と、半分冗談みたいに思っていた。
だが、今ははっきり分かる。
あれは比喩なんかじゃなかった。
本当に、眩しい。
自分の腕から放たれている光が、まるで昼間の太陽みたいに周囲を照らしている。
「マジかよ……」
思わず声が漏れる。
だが、異常はそれだけじゃなかった。
よく見ると、腕や肩のあたりから白い煙のようなものが立ち昇っている。
最初は何かの魔力の残滓かと思った。
だが違う。
それは――蒸気だった。
身体から湯気のように立ち昇る白い蒸気。
どうやら俺の体温は、想像以上に上がっているらしい。
「そりゃあ、そうか……」
自嘲気味に呟く。
今、俺の体内には太陽(仮)がある。
本物の太陽だったら、肉体なんて一瞬で蒸発しているだろう。
それでもこうして形を保っていられるのは、魔力のおかげなのか、それともただの奇跡なのか。
どちらにしても――
「熱すぎるな……」
この状態は長く持たない。
身体の奥が、限界だと悲鳴を上げているのが分かる。
皮膚が焼けるように痛い。
筋肉が軋む。
このまま維持していれば、本当に自分の身体が溶けかねない。
冗談ではなく、本気で。
「……長くて一分、ってところか」
直感的に分かった。
この状態を保てる時間は、恐らくそれ以下だ。
悠長に作戦を考える余裕なんてない。
だったら――
答えは一つだ。
「この一撃で決める」
そう結論づけ、俺はゆっくりと息を吐いた。
「……ふう」
一呼吸。
そして、腰を落とす。
右拳を前に構え、重心を下げる。
狙いは、ブラム。
この拳に――
俺が作り出した“太陽”を乗せる。
距離は少し離れている。
だが、今の俺にはほとんど問題に感じなかった。
むしろ、身体の奥から力が溢れてくる。
全身が軽い。
さっきまでとは比べものにならないほど、魔力が巡っている。
「……なんか、超サイヤ人になった気分だな」
思わずそんな感想が浮かぶ。
もちろん、冗談を言っている余裕なんてない。
だが、それくらいの高揚感があった。
俺は拳を構えたまま、静かに詠唱を始める。
「天を巡る万光よ……」
光が、拳に集まる。
身体の奥に生まれた太陽が、右腕を通って拳へと流れ込んでいく。
「我が身に宿れ」
集中する。
一点集中。
力を拡散させるな。
この拳一点に、すべてを込める。
「闇を裂く燦きとなりて――」
光がさらに強くなる。
拳の周囲が、眩い輝きに包まれていく。
「この拳に集え……!」
そして――
「爆ぜよ!」
地面を蹴る。
次の瞬間、俺の身体は弾丸のように飛び出していた。
一瞬で空気が裂ける。
距離を一気に詰める。
マヒロとブラムが戦っている場所へ。
先ほども同じように飛び込んだが――
今の速度は、その比じゃない。
まるで世界がスローモーションになったみたいだった。
「貴様?!」
ブラムがこちらに気づく。
「サダメ?!」
同時に、マヒロの驚いた声が聞こえた。
どうやら間に合ったらしい。
ブラムは、今まさにマヒロへ攻撃を仕掛けようとしていたところだった。
だが、その腕が振り下ろされる前に――
俺はすでに間合いに入っている。
あとは、この拳を叩き込むだけ。
体内の太陽を、すべて乗せて。
俺は全力で拳を振り抜いた。
「――【燦光爆拳】ォォォ!!!」




