第10章ー49
「マヒロ……」
思わず、その名前を小さく呟いていた。
私たちは片隅で、ただ立ち尽くしている。
目の前で繰り広げられている戦いを、呆然と見守ることしかできなかった。
マヒロが戦っている。
それも――とんでもない相手と。
あの吸血鬼族。
ブラムと名乗った化け物。
強い。
そんな言葉では足りないほど、圧倒的だった。
マヒロは強い。
私たちの中では間違いなく一番の戦力だ。どんな魔物が相手でも、彼女ならなんとかしてくれる。そんな信頼があった。
けれど――
そのマヒロですら、まともに戦って苦戦している。
それが、どれほど異常な状況なのか。
私には嫌というほど分かってしまう。
私にできることは、ただ一つ。
後ろにいるフィーちゃんたち三人を守ること。
それだけだった。
防御魔法を展開し、もしもの時に備える。
それが、今の私の役目。
だけど――
その役目すら、意味があるのか分からない。
なぜなら、ブラムは私たちにまったく興味を示していないからだ。
攻撃が飛んでくる気配は、一向にない。
まるで、最初から私たちの存在など視界に入っていないかのように。
おそらく理由は簡単だ。
マヒロ。
彼女が一人で、あの化け物を相手取っているからだ。
ブラムも、さすがに手を焼いているのだろう。
それでも――
胸の奥が、重く沈む。
悔しい。
あまりにも悔しかった。
私の防御魔法は、決して弱くない。
これまで何度も仲間を守ってきた自信がある。
なのに。
あの吸血鬼は、そんな魔法をまるで紙みたいに破ってきた。
もし私が前に出たら?
そんなの、想像するまでもない。
間違いなく、足手まといになる。
マヒロの邪魔になるだけだ。
その事実が、どうしようもなく苦しかった。
「……」
拳を握り締める。
助けたい。
でも、助けられない。
それが分かっているからこそ、余計に辛い。
だけど――
マヒロ一人で、あの化け物を倒すのは厳しい。
いくら彼女でも。
そうなると、頼れるのはもう一人しかいない。
サダメ。
彼は今、マヒロとは別の場所にいる。
戦いに直接加わるのではなく、遠くからブラムの弱点を探っているはずだった。
サダメは、こういう時に頼りになる。
頭の回転が速いし、発想も柔軟だ。
きっと何か見つけてくれる。
そう信じている。
「……サダメ?」
ふと、気になってそちらへ視線を向けた。
次の瞬間。
私は思わず目を疑った。
「なに……あれ?」
サダメの様子がおかしい。
一目見ただけで分かった。
彼の身体が――
光っていた。
最初は、目の錯覚かと思った。
戦闘の余波で、何かの魔法の光が反射しているのかもしれない。そう思った。
だけど、違う。
よく見ると、その光はサダメ自身から発せられている。
身体の奥から、滲み出るような光。
まるで――
体の内側に、光源があるみたいに。
「……え?」
思わず息を呑む。
その光は、どんどん強くなっていく。
淡い輝きだったものが、次第に眩しさを増していく。
サダメは目を閉じていた。
その場から動かず、じっと立っている。
まるで何かに集中しているように。
魔法……?
いや、でも。
こんな光、見たことがない。
炎でもない。
雷でもない。
神聖魔法とも、少し違う。
だけど――
どこか似ている。
暖かくて、強くて、そして――
圧倒的な存在感。
胸の奥がざわつく。
魔力の波が、空気を震わせているのが分かる。
こんな魔力……サダメから感じたことがない。
「サダメ……」
不安と驚きが入り混じる。
何をしようとしているの?
大丈夫なの?
声をかけそうになる。
でも――
声が出なかった。
邪魔をしてはいけない。
そんな直感が働いたからだ。
サダメは今、何かとんでもないことをしようとしている。
それだけは、はっきりと分かった。
光はさらに強くなる。
眩しい。
まるで、小さな太陽がそこにあるみたいだった。
「……嘘」
思わず、呟く。
その瞬間。
胸の奥で、小さな希望が灯った。
もしかして――
サダメは。
ブラムを倒す方法を、見つけたのかもしれない。




