第10章ー47
日光。
太陽の光。
吸血鬼の弱点として、真っ先に思い浮かぶものだ。
多くの物語では、吸血鬼は太陽の光を浴びると灰になったり、力を大きく失ったりする。夜の王である彼らにとって、陽光は天敵と言っていい存在だ。
もっとも――それがブラムにも当てはまるかどうかは分からないが。
「……いや、待てよ」
ふと、現実的な問題に気づく。
今の時間だ。
体感的に、もう日付は変わっているはずだ。
外はとっくに夜。太陽なんて出ているはずがない。
つまり、仮に日光が弱点だったとしても――
今、この場では使えない。
「くそ……」
思わず小さく舌打ちする。
とはいえ、ブラムが夜に行動しているのは当然とも言える。
吸血鬼という存在を考えれば、むしろ自然な行動だ。
人語を話す魔物が人間と同じように睡眠を取ることは、ドレーカ村で既に知っている。
とはいえ、暗闇を好むとはいえ、それは単なる生活習慣の差であって、生物としての基本的な部分はそう変わらない。
夜に動き、昼に休む。
ただそれだけだ。
だからこそ、ブラムがこの時間に襲ってきたのは偶然ではない可能性もある。
……だが、それだけでは確証にはならない。
考えろ。
何かヒントがあるはずだ。
そう思い、俺はさっきまでの戦闘を思い返した。
すると、ある一つの場面が脳裏に浮かぶ。
「……あの時か」
確かに手応えがあった攻撃。
火球・炎衝拳。
あの一撃だ。
正直、決定的なダメージにはならなかった。
だが、これまでの攻撃の中で、あれが一番効いていたように見えた。
最大火力の火球で半身を吹き飛ばした時もあった。
だが、あれは無防備な状態だったうえ――
どこか『わざと受けた』ようにも見えた。
あれが何を意味しているのかは分からない。
だが少なくとも、炎衝拳の時だけは、ブラムの反応が違っていた気がする。
「同じ炎魔法なのに……何が違う?」
俺は真剣に考え始める。
火球と炎衝拳の違い。
まず分かりやすいのは、距離だ。
遠距離攻撃か、近距離攻撃か。
つまり、射撃か打撃か。
だが、それだけで説明できるとは思えない。
次に思い浮かぶのは、威力。
確かに炎衝拳の方が威力は高い。
拳に魔力を集中させて叩き込む分、破壊力は上がる。
だが、あの時の火球だって相当な威力は出ていたはずだ。
単純な火力差だけで説明するには無理がある。
となると――
「……威力の伝わり方、か?」
ふと、そんな考えが浮かぶ。
火球は爆発する。
つまり、威力は拡散する。
一方、炎衝拳は一点。
衝撃も熱も、すべてが一点に集中する。
だからこそ、ダメージが通った?
「……あり得なくはない」
自分なりに筋は通っている気がする。
だが、同時に問題も浮かぶ。
もしその考えが正しかったとして――
「やつに致命傷を与えるには……」
炎衝拳以上の威力が必要になる。
しかも一点集中で。
今の一撃で残せたのは、せいぜい痣程度。
ブラムを倒すには、その何倍、いや何十倍もの威力が必要だろう。
俺の炎が――
もし、太陽のように燃え上がる炎だったなら。
もしかしたら大ダメージを与えられるかもしれない。
だが。
「太陽レベルの炎って……どうやって出すんだよ」
火球を巨大化させることはできる。
理屈の上では、太陽のような大きさだって可能かもしれない。
……だが、そんなものを出したら。
この迷宮どころか、世界が終わる。
完全に本末転倒だ。
「太陽……フレア……プロミネンス……陽光……」
頭の中で言葉がぐるぐる回る。
もし、あの炎衝拳が――
太陽に“少しだけ”近い攻撃だったとしたら。
もっと完成形に近づけるはずだ。
だが、何かが足りない。
炎だけでは、太陽にはならない。
炎魔法で太陽を作るには――
「……陽光」
光。
その瞬間、脳内で何かが繋がった。
「……光?」
炎ではなく。
太陽の本質。
それは――




