第10章ー46
「んー……吸血鬼。吸血鬼といえば……」
必死に頭を回す。
時間がない。
マヒロが命懸けで時間を稼いでくれている。その猶予を無駄にするわけにはいかない。
吸血鬼。
俺の前世の知識の中でも、トップクラスにメジャーな存在だ。
映画、小説、漫画、ゲーム――数え切れないほどの作品に登場してきた種族。
つまり、弱点のテンプレも豊富。
「ニンニク、十字架、聖水、銀の弾丸……えーっと、あとは……」
口に出しながら整理する。
まず、ニンニク。
……無理だ。
誰が戦闘中にニンニクを持ち歩くんだよ。
買い物帰りでもない限りあり得ない。仮にあったとしても、生のニンニクをブラムに投げつけてどうなる? 本当に効く保証もない。
却下。
次に、十字架。
これもありがちだ。
神聖な力がどうのこうので、吸血鬼が近づけないとか、触れると焼けるとか。
だが――俺もミオも持っていない。
教会育ちではあるが、神父様やエリカさんみたいに信仰心が強いわけじゃない。アクセサリーとして十字架を常備する習慣もなかった。
神父様たちは優しい人たちだった。
信仰を強制することもなかった。
……その結果がこれか?
なんだか天罰みたいで、少し複雑な気持ちになる。
生き残れたら、ちゃんと十字架のアクセサリーくらいは身につけよう。マジで。
だが今は後悔しても仕方がない。
これも却下。
次。
銀。
正確には銀の弾丸、だが、要するに銀そのもの。
これは可能性がある。
銃弾はさすがにないだろうけど、銀製の武具や魔道具なら、誰かが持っていても不思議ではない。
特に――ソンジさん。
あの人は色んな魔道具を常に持ち歩いている。
その中に銀を用いたものがあってもおかしくない。
可能性は、ゼロじゃない。
だが、問題がある。
距離だ。
俺とソンジさんは、かなり離れている。
ここから大声で確認することはできる。だが、それはブラムにも聞かれるということだ。
もし銀が本当に弱点だった場合、警戒される。
かといって、取りに走るのもリスクが高い。
今はマヒロが前に出てくれているから俺に追撃が来ていないだけ。俺が不自然に動けば、ブラムの意識がこちらに向く可能性がある。
そうなれば、せっかく流れ弾が当たらない位置に下がった意味がなくなる。
クソ。
離れる前に、使えそうなものがあるか確認しておくべきだったか。
だが――
そもそも、銀が本当に弱点だと決まったわけじゃない。
創作のテンプレだからといって、この世界の吸血鬼に当てはまる保証はない。取りに行って無駄だった場合、完全に時間の浪費だ。
落ち着け。
感情で動くな。
もっと冷静に、論理的に考えろ。
吸血鬼の弱点になりそうなもの。
この世界の理屈に照らしても、ある程度納得できるもの。
ブラムの能力を思い返す。
血を操る。
異常な再生能力。
魔導結界という閉鎖空間。
……閉鎖空間?
ふと、違和感が引っかかる。
ブラムの結界は、血で満たされた空間。
天井も、壁も、床も、血。
つまり、外界から遮断されている。
外界。
――外。
「……ッ!?」
脳裏に、あるイメージが閃いた。
吸血鬼といえば。
ニンニクでも十字架でもない。
もっと、もっと根本的なもの。
多くの作品で共通している“最大の弱点”。
夜の王。
闇の住人。
そう呼ばれる存在にとって、致命的なもの。
「そうか……!」
鼓動が早まる。
これまで考えた中で、いちばん現実味がある。
銀よりも、十字架よりも。
この世界の理屈でも、説明がつきやすい。
血を操る闇の種族。
ならば、その対極にあるものは何だ?
「日光……!」




