第10章ー45
「はあ……はあ……はあ……」
放炎斬渦で、どうにか猛攻を凌ぎ切った。
その安堵が引き金になったのか、張り詰めていた何かが一気にほどけ、押し殺していた息が溢れ出る。
――やばいな。
胸が上下するのを感じながら、初めて自覚した。
どうやら緊張のあまり、無意識に呼吸そのものを忘れていたらしい。戦闘中、肺が酸素を求めて悲鳴を上げていた感覚が、今になって追いかけてくる。
だが、立ち止まっている暇はない。
一旦の危機は脱した。
それだけは確かだ。
けれど、戦いは終わっていない。
むしろ、本番はこれからだ。
視線をブラムの方へ向けると、マヒロが必死に応戦しているのが見えた。
いつもの正面から斬り伏せる戦い方とは明らかに違う。普段なら好まないはずの搦め手を使っている。
――時間を稼いでくれている。
そう理解した瞬間、胸の奥が少しだけ熱くなる。
だが、感傷に浸る余裕はない。彼女がいつまで持つか分からない以上、ここで答えを出さなければならない。
今のうちに、ブラムの攻略法を見つける。
それができなければ、この結界内で全滅だ。
吸血鬼――ブラム。
やつの戦い方を、頭の中で一つずつ整理していく。
まず、血を操る能力。
それによる異常なまでの再生能力。致命傷を与えても、数瞬で元に戻る。首を刎ねても意味がない。普通の戦い方では決定打にならない。
さらに、身体強化と遠距離攻撃。
膂力、速度、耐久力のすべてが高水準。加えて血の槍による広範囲攻撃。単純な性能差だけでも厄介極まりない。
そして何より――魔導結界。
この空間そのものが、ブラムの領域だ。
床、壁、天井、あらゆる場所から血の槍を生み出せる。無詠唱、無制限。理不尽の塊みたいな能力。
正直に言えば、やつがエイシャのように最初から殺す気で来ていたら、俺たちはもうこの世にいなかった。
ブラムが“戦いを楽しむ”性質であること。
プライドの高さゆえに、正面からねじ伏せることを選んでいること。
その性格が、今は俺たちの命を繋いでいる。
だが、それに甘えてはいけない。
遊びが終わった瞬間、こちらは即座に詰む。
コールスタッシュ先生との話を思い出す限り、魔導結界は儀式に近い。
完成すれば、生殺与奪は術者の自由。
まさに、手のひらの上。
けれど。
儀式なら――破壊できる。
魔障結界がそうだったように、どんな結界にも“終わらせる条件”があるはずだ。
術者を殺す。
あるいは、気絶させる。
戦闘不能にする。
そうすれば、結界は解除される……はず。
確証はない。
だが、魔障結界の前例を考えれば、的外れとも言い切れない。
問題は、どうやってブラムをそこまで追い込むか。
あの再生能力を前に、本当に“倒す”ことが可能なのか――。
「……ん? 待てよ」
その疑問は、ふとした記憶で打ち消された。
吸血鬼族は、不死身ではない。
ライラック先生の授業で聞いた。
過去に、確実に死亡した吸血鬼族が存在することを。
四十七体。
しかも、ある程度は解剖までされている。
つまり――。
倒し方は、存在する。




