第2章ー23
「はあ……はあ……」
「オラ、死ねや……!」
「はあっ!」
「ぐわああっ!?」
「っ?! こ、このガキ……本当にただの子どもか?」
魔物との戦いが始まってから、いったいどれほどの時間が経ったのだろう。
体感では、一時間以上も戦い続けているような気がする。実際には、そこまで長くはないのかもしれない。
それでも、身体に蓄積した疲労は限界に近づいていた。
肺が焼けるように熱い。
息を吸うたびに胸が痛み、呼吸を整えようとしても、なかなか落ち着かない。
これまでに何体の魔物を斬り倒しただろうか。
二十体……いや、三十体以上は確実に倒したはずだ。
それなのに、いくら倒しても敵の数が減っているようには感じられない。
まるで、底なし沼に足を踏み入れてしまったかのようだった。くそ。想定していた以上に多すぎる。
「落ち着け! 相手は一人だ! ただのガキじゃねぇが、数で押し切りゃ殺せない相手じゃねぇ! 囲んで潰せ!!」
「うおおおおおお!!」
「くっ!?」
魔物たちは勢いを衰えさせることなく、一斉に襲いかかってきた。
今度は五、六体が同時に迫ってくる。
これまでは、なるべく一対一の状況に持ち込み、確実に仕留めることで数を減らしてきた。
だが、複数の魔物を同時に相手にするのは危険すぎる。
今の自分には、そんな余裕はない。
「ん゛っ!!」
完全に包囲される前に、自分は地面を蹴った。
【脱兎跳躍】を発動させ、迫りくる魔物たちの頭上へと飛び上がる。
間一髪。
どうにか包囲網を抜けることには成功したが、これで奴らに気づかれてしまっただろう。
自分が複数の敵を相手にすることを避けている、ということに。
「ちっ、やり損ねたか」
「だがよ、あのガキ……ビビってやがるぞ」
「ああ。このまま押せばいける!」
「くそっ……!」
案の定、見抜かれていた。
どうする……?
いったん距離を取るか?
いや、そんなことをしている場合じゃない。
仲間たちが今どうなっているのか、まったく分からないのだ。
魔障結界は、まだ解除されていない。
もしかしたら、作戦そのものが失敗している可能性だってある。
それでも――。
自分がここで逃げるわけにはいかない。
こいつらの注意を引きつけ、ほかの場所へ向かわせない。
それが、自分に与えられた役目なのだから。
……だが。
ミオは、無事なのか?
ラエルたちは、ちゃんと逃げられているのか?
嫌な想像が頭をよぎる。
今すぐにでも仲間たちのもとへ戻りたい。
無事かどうか、自分の目で確かめたい。
そんな衝動が、胸の奥から込み上げてきた。
――ダメだ。
――信じろ。
今は、目の前の敵に集中するんだ。
「よし、もう一度囲め!!」
「っ?! しまった!」
ほんの一瞬、考え事をしてしまった。
その隙を、魔物たちは見逃さなかった。
着地した瞬間、背後から気配が迫る。
前方にも、殺気。
「……っ!」
――逃げ場がない。
背後の敵を斬り伏せて突破するか?
いや、間に合わない。
仮に斬れたとしても、前方の敵に攻撃される可能性が高い。
よくて相討ち。
かといって、前方へ突っ込むにも、着地直後で体勢が整っていない。
「ははっ、とっとと死にやがれ!!」
「……くそっ」
間に合わない。
もう、どうすることもできないのか。
ここで終わるのか?
ようやく見つけた、生きる意味。
もう一度、みんなと生きて帰るという約束。
それすら、ここで失ってしまうのか――。
「――うおっ?!」
「っ?! なんだ、今の音は!?」
「……?」
その瞬間。
どこか遠くから、空気を引き裂くような轟音が響き渡った。
「……っ!」
あまりにも突然の音に、思わず身構える。
魔物たちも同じだった。
今まさに自分を仕留めようとしていた連中が、一斉に動きを止める。
「な、なんだ……?」
周囲にざわめきが広がった。
魔物たちは互いに顔を見合わせ、音のした方向へ視線を向けている。
自分も何が起きたのか理解できず、思考が一瞬止まってしまった。
――今の音は、何だ?
「お、おい! あそこ……竜巻が出てるぞ!!」
「はあ?! 何言ってやがる!」
「いや、俺も分かんねぇ! けど、ほら、あそこだ!!」
「っ!?」
魔物の一体が指さした方向へ、自分も視線を向ける。
そして――。
「……なんだ、あれ」
そこにあったのは、天へと届きそうなほど巨大な竜巻だった。
地面から空へ向かって、一本の柱のように立ち上っている。
その規模は、明らかに異常だった。
こんなものが、この村で自然に発生するはずがない。
「……まさか、ミオが……」
思わず、そんな言葉が口から漏れた。
あの方角には、魔造種の貯蔵庫があったはずだ。
タイミングも、あまりにも一致している。
――儀式の破壊に、成功したのか?
いや、それにしても……。
「派手すぎるだろ……」
あんな巨大な竜巻を生み出すなんて、いったい何をしたんだ?
「だ、誰か状況を確認しろ――」
「はあっ!?」
「ぐわああっ!?」
「っ?! しまった、あのガキが逃げたぞ!!」
「追え!! 逃がすな!!!」
「……悪いな」
混乱している魔物たちの隙を突き、目の前にいた一体を斬り伏せる。
そのまま地面を蹴り、【脱兎跳躍】を発動。
包囲の外へと一気に飛び出した。
――よし。
これで、どうにか抜けられた。
囮の役目は、もう終わった。
魔障結界も、じきに解けるはずだ。
だが……。
――ミオが危ない。
あの竜巻の中心にいるのが彼女なら、無事で済むはずがない。
あれほどの魔法を使ったんだ。
魔力酔いだって、相当ひどくなっているはず。
それに、もし魔法を制御できていなかったら……。
「待ってろよ、ミオ! 今、助けに行く!!」
自分は全力で地面を蹴った。
目指すは、夜を裂くような轟音が響く場所。
あの巨大な竜巻の中心へ。
――絶対に、間に合ってみせる。
そう自分に言い聞かせながら、自分は仲間のもとへ向かって駆け出した。




