表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生勇者が死ぬまで10000日  作者: 慶名 安
2章 脱出編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/759

第2章ー22

 「……」


 嵐を思い描いているはずなのに、実際に生まれるのはせいぜい荒い風が渦を巻くだけ。

 吹き荒れてはいる。だが“嵐”と呼ぶにはあまりにも弱い。


 ――何が足りない?


 魔力か。

 それとも、イメージの精度か。

 あるいは、その両方。


 「はあ……はあ……」


 風魔法の余波で、近くに積まれていた木箱と魔造種の保管ケースが吹き飛び、床に散乱している。

 そのせいで倉庫内の魔力の流れは歪み、あちこちで乱流のような魔力の渦が生まれていた。

 時折、強い魔力の塊が私の身体にぶつかり、頭の奥がくらりと揺れる。


 ――魔力酔い。


 服用していた酔い止めの効果も、そろそろ限界が近い。

 これ以上長引かせれば、自分が先に倒れる。


 「でも……どうすれば、もっと大きい風を出せるのよ……」


 私が今出せる風は、せいぜい大きなボールほどの塊。

 それでは、この倉庫を壊すどころか、箱を転がすのが精一杯だ。


 ――もっと。

 ――圧倒的な風。


 「んんーっ!」


 今度は欲張らない。

 嵐ではなく、“ただ大きな風”を思い描く。

 木箱をまとめて吹き飛ばす程度の規模。まずはそこから。


 「んっ……んーーーーっ!!」


 額に汗が滲む。

 手のひらは湿り、指先が震えている。

 集中しているはずなのに、魔法陣は安定しない。


 ――まだ足りない?

 ――私の魔力が少ないから?


 「……違う」


 自分でその考えを振り払う。


 私は治癒魔法と風魔法の両方を扱える。

 魔力量が少ないわけがない。

 足りないのは、“信じ切る力”だ。


 「ダメ! 絶対、あきらめないんだから!!」


 自分に言い聞かせるように叫び、魔力をさらに注ぎ込む。


 ――イメージを、もっと鮮明に。

 ――私を中心に、渦巻く風。

 ――守るように、巻き上がる小さな竜巻。


 「はぁあああああああああ!!」


 手のひらから生まれた風は、私の身体を包むように円を描く。

 柔らかな渦。

 だが、確かに“竜巻の核”だ。


 「……もっと荒く。もっと強く……!」


 私は目を閉じ、音だけに意識を集中する。

 風が壁を打つ音。

 箱が転がる音。

 空気が裂ける低い唸り。


 ――いい。

 ――このまま、さらに大きく。


 「ぁああああああああああ!!!!」


 倉庫のどこかで、木材がぶつかり合う音。

 金属が軋む高い悲鳴。

 空間そのものが揺れているような錯覚。


 ――もう少し。

 ――あと少しで……!


 「はあああああああああっ!!!!!!」


 全魔力を解き放った瞬間――

 ふっと、風の音が消えた。


 「……?」


 私はゆっくりと目を開く。

 視界に入ったのは、床に突いた自分の手。

 手のひらは汗でぐっしょりと濡れ、そこから風は一切出ていなかった。


 ――失敗?


 不安が胸をよぎる。

 ここまでやって、何も変わっていなかったら……。


 恐る恐る、顔を上げる。


 「……っ?!」


 目の前に広がっていたのは、想像を超えた光景だった。


 倉庫は――消えていた。

 正確には、“原型を留めていなかった”。


 壁は削れ、天井は吹き飛び、床には巨大な円形の痕が刻まれている。

 そして、その中心。


 ――私。


 私を核に、小さな竜巻が今もなお静かに回転していた。


 「……ウソ……」


 呆然とした声が、風音に溶けて消える。


 イメージ通り。

 いや、それ以上。


 自分が生み出した力を、私はまだ理解しきれていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ