↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生勇者が死ぬまで10000日  作者: 慶名 安
2章 脱出編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/821

第2章ー20

 「はあ……はあ……」


 村の中央付近から、大きな爆発音とともに火煙が立ち上っていた。


 ――きっと、サダメが動いたんだ。


 魔物たちも、爆発が起きた方角へ次々と向かっている。周囲を警戒していた連中の姿も、先ほどより少なくなっていた。


 行くなら、今しかない。


 私はサダメの指示に従い、魔造種を保管している倉庫へと向かっていた。あの結界を解除するための手掛かりを見つける。それが、今の私に与えられた役目だ。


 魔物に見つからないよう、建物の陰から陰へと移動する。少し進んでは立ち止まり、物音がしないか耳を澄ませる。その繰り返しのせいで、普段なら大した距離でもないはずの道のりが、ひどく長く感じられた。


 「おい、なんかあっちで爆発してるみてーだけど、俺たちも行った方がいいのかな?」


 「いや、念のためここら辺にいろ。もしかしたら、奴らがこっちを通るかもしれん」


 「……」


 思わず、物陰に身を潜めた。


 爆発に注意を奪われている魔物ばかりではないらしい。こうして持ち場を離れず、周囲を警戒している者たちもいる。


 二人だけとはいえ、見つかれば終わりだ。


 私が捕まれば、今度こそ命はないだろう。


 喉の奥がきゅっと締めつけられる。逃げ出したい気持ちを必死に押し殺し、魔物たちの会話が途切れるのを待った。


 ……大丈夫。


 今は、まだ見つかっていない。


 焦るな。慎重に。


 そう自分に言い聞かせながら、私は再び足を動かした。


 ――――――


 「……よし。ここには誰もいないみたいね」


 どうにか倉庫まで辿り着くことができた。


 周囲を見回しても、魔物の姿は見当たらない。物音にも注意を払いながら扉に近づき、そっと中へと足を踏み入れた。


 「んっ!?」


 その瞬間、胃の奥から込み上げるような不快感に襲われた。


 ――すごい魔力……!


 以前と変わらない、いや、改めて感じると、その圧力は想像以上だった。


 空気そのものが重く、肌にまとわりついてくるような感覚。呼吸をするだけでも、身体の内側を何かに押さえつけられているような気分になる。


 この場所に長くいたら、また吐いてしまいそうだ。


 ……なるほど。だから、この辺りの警備が薄いのかもしれない。


 魔物にとっては何ともないのだとしても、私たち人間には、この魔力そのものが大きな負担になる。


 考えている余裕はなかった。


 「風の精よ。内を汚す邪気より、わが身を守りたまえ。【風来の加護(ウィンテクション)】」


 詠唱を終えると、身体の周囲を穏やかな風が包み込んだ。


 これで魔力酔いによる吐き気は、ある程度抑えられる……はず。


 ただ、この禍々しい魔力の中で、どれほど効果が持続するかは分からない。


 長居は禁物だ。できるだけ早く、結界の解除に必要なものを見つけなければ。


 「さて……どこにあるかな」


 私は小さく呟き、倉庫内の探索を始めた。


 ――――――


 「……暗くて、ほんと見えづらい」


 探索を始めてすぐ、私はこの場所が想像以上に厄介だと気づかされた。


 倉庫の中はもともと薄暗いうえ、夜の闇が重なっている。目を凝らしても、見えるのはぼんやりと浮かび上がる木箱の輪郭くらいだった。


 「きゃっ!?」


 足元がよく見えず、積み上げられた木箱に何度も身体をぶつけてしまう。


 今も、足先が箱の角に引っかかり、危うく転びそうになった。


 「うぅ……もう嫌ぁ……」


 情けない声が漏れる。


 念のため、サダメが持ってきてくれたライトも手元にある。これを使えば、少なくとも足元くらいは確認できるはずだ。


 けれど、明かりをつければ、外にいる魔物たちに気づかれる危険が一気に高まる。


 これは、あくまで見つかったときに使うための目くらまし。


 今、使うわけにはいかない。


 「でも、この暗さじゃ……儀式に使った魔法陣なんて、見つけられっこないよ……」


 そもそも、私は魔法陣の形状を詳しく知らない。


 どのような模様なのか。どれほどの大きさなのか。床に描かれているのか、それとも別の場所にあるのか。


 何も分からないまま、手探りで探すしかないのだ。


 仮に目の前にあったとしても、暗闇の中でそれが目的の魔法陣だと判断できるかどうか。


 考えれば考えるほど、不安が膨らんでいく。


 「……急がないと」


 私はぎゅっと拳を握りしめた。


 サダメも、今頃は一人で魔物たちを引きつけてくれているはずだ。ほかのみんなだって、それぞれの役目を果たそうと必死になっている。


 それなのに、私だけがここで立ち止まっているわけにはいかない。


 私が諦めてしまえば、みんなの努力が無駄になってしまう。


 そんなの、絶対に嫌だ。


 「こうなったら、地道に探すしかないわね!」


 自分を奮い立たせるように声を上げ、私はその場にしゃがみ込んだ。


 床に手をつき、目を凝らしながら、少しずつ周囲を調べていく。


 這いつくばるようにして、床の隅から隅まで確認する。あまりにも地道な方法だが、今の私には、ほかに良い案が思いつかなかった。


 木箱の間に手を差し入れ、床に何か刻まれていないか確かめる。


 視界は相変わらず悪い。床板の木目が、かろうじて見える程度だ。


 それでも、探すしかない。


「ん~……いたっ!?」


 慎重に進んでいたはずなのに、額が木箱の角にぶつかった。


 「いったぁ……もう、最悪……」


 思わず額を押さえる。


 その拍子に、身体が木箱へとぶつかった。


 ――ガタンッ!


 「……あっ」


 鈍い音が倉庫内に響き渡った。


 しまった。


 音を立ててはいけないのに……!


 私は慌てて口を押さえ、扉の向こうへと意識を集中させた。


 誰かに聞かれただろうか。


 足音は?


 声は?


 ……。


 しばらく待ってみたが、外から誰かが駆け寄ってくる気配はなかった。


 「……よかったぁ」


 胸を撫で下ろし、改めて倒れた木箱へと目を向ける。


 そして、ふと違和感を覚えた。


 「……あれ?」


 おかしい。


 この木箱には、魔造種が大量に詰められていたはずだ。


 なのに――中身が、ない。


 「……」


 誰かが持ち出したのだろうか。


 そう考えれば、説明がつかないわけではない。けれど、どうしても何かが引っかかる。


 胸の奥に、嫌な予感がじわじわと広がっていく。


 私は倒れた木箱の中をもう一度確かめ、それから周囲に積まれた箱へと視線を移した。


 ……ほかの箱も、確認してみよう。


 「はあっ!」


 魔造種が詰まった木箱は、相当な重量がある。私の力だけで持ち上げるのは難しい。


 けれど、私には風魔法がある。


 周囲の空気を操り、積み重なった木箱の一列を慎重に浮かせる。崩れないように注意しながら、少しずつ横へずらしていった。


 そして、その下に隠れていた床と、箱の並びを確認する。


 「ッ!? これは……」


 木箱を元の位置へ戻した瞬間、私は息を呑んだ。


 ただの空箱が混ざっている。それだけではない。


 箱をずらす前と後で、何かがおかしい。


 偶然では片づけられない、明らかな違和感。


 暗闇の中、私はその光景を凝視した。


 ――この倉庫、何かがおかしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。