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転生勇者が死ぬまで10000日  作者: 慶名 安
1章 転生編
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第1章ー③

 5か月が経ち、雪が降り積もる冬真っ只中、ようやく自分ははいはいが出来るようになっていた。ようやくだ。ようやく自力で移動できるようになり、両親以上に感動している。ここまで本当に長かった。




 生まれて数日後、現状を把握するため、自らの足と目で情報を入手しようと歩行に挑戦してみたのだが、意識だけは動いても手足をバタつかせるのが精一杯で、まったく動かなかった。生まれて数日だから、身体がまだまだ発達していなかったのだ。歩行は早々に諦めた。起き上がることすら出来ない身体では、どう頑張っても無理だ。




 それからしばらくはとにかく聞き耳を立てた。というか、それぐらいしか自分に出来る情報収集の手段はなかった。幸いなことに、両親はフレンドリーで顔が広い。だから家には人がたくさん来て、度々飲み会が開かれるから色々話を聞くことが出来た。




 それはいいとして、やはり身体を動かせないのは精神的にキツかった。外出時以外は何時間も天井を見ていた。「こんなことするぐらいなら天井のシミを数える方がマシ」なんていう人もいるが、実際やってみたらこれ以上の拷問はないんじゃないかレベルで地獄だからな。マジで。




 そんな生活からなんとか抜け出すための第一歩だ。自分も含めて家族全員大喜びだった。まあ、両親と自分が喜んでる理由は全然違うと思うけど。




 しかし、はいはい出来たところで移動に制限がかけられていることには変わりはなかった。そりゃあまだ赤ん坊だから、親の監視が厳しくて迂闊に動けない。特に母は心配性だから定期的にこちらの様子を見てくる。親としてはまっとうな判断なのだろうが、こっちとしてはありがた迷惑な話だ。




 コンコン




 「あら、そろそろ来たのかしら」




 母が家事の最中、玄関からノックする音が聞こえてきた。そういえば、今日は予言師の人が来るとかなんとか言ってた気がする。




 詳しいことはよくわからないが、予言師とは人の魔力の資質や貯蓄量などを見て、その人の将来を予言するという職業らしい。要するに占い師みたいなものだと思えばいいのかな。自分はあんまり占いは信じない方だが、ちゃんとした占い師に見てもらったことがないから強く否定してるわけでもない。自分が信じてないのはテレビ占いやアプリ占いの類のやつだしな。




 「ミエールさん、ご無沙汰しております」




 「えっえっえっ、お前さんも随分母親らしくなってきたなステラ。イノスはおるかえ?」




 「ええ。ちょっと呼んできますね」




 それからしばらくして、母が父を連れてきた。眠っていたようで、髪がボサボサ。とても客人の前で見せるような格好ではなかった。我が親ながら恥ずかしい。




 「お久しぶりですミエールさん。寒い中すいません」




 「えっえっえっ、久しぶりといっても数カ月前に会っておるからそんなに久しぶりでもない気がするのお、えっえっえっ」




 「ははっ、そういえばそうですね」




 「あと、客人が来るときはその格好は止めといた方がいいぞ、えっえっえっ」




 「…き、気をつけます」




 自分が思っていたことを指摘され、シュンとする父。ほらな、言わんこっちゃない。




 「それより、外は寒いですし、どうぞ中に」




 「えっえっえっ、それじゃあ、お言葉に甘えるかのお」




 そんな頼りない父をよそ目に、母は客人を家の中に入れた。




 予言師ミエール。少し離れた村に住んでおり、その周辺の村々では唯一の予言師らしい。そもそも予言師を生業としている人は多くはないそうだ。




 小柄な体格でしわっしわの顔と大きい鼻、あと独特な笑い方が特徴的な人で、歳は100を超えているらしい。紫色のローブを全身に纏っているせいもあってか、もうほとんど魔女にしか見えない。性別は男のようだが。おじいちゃんっぽいおばあちゃんは見たことあるが、その逆は初めて見たかもしれない。




 「さてと、その子がお前さんらの子かえ?」




 「はい、名前はサダメといいます」




 「えっえっえっ、サダメとは大層な名を付けたもんじゃ」




 「いえいえ、この子はその名前に似合う立派な子になりますよ!」




 「それはいいが、あまり子供に変な責任感とか押し付けんようにな。子というのは親に敷かれたレールには乗りたくないもんじゃからのお」




 「もちろんです。けど、出来ることなら俺みたいに騎士団に入って強い男になって欲しいものですけど」




 「えっえっえっ、副団長にまでなっただけあって自己評価が高いのお」




 「もー、あなたってば。まだ見てもらってもいないのに、気が早いわ」




 「それもそうか。それじゃあミエールさん、お願いします」




 「そうじゃのお。さて、この子は父親か母親、どっちに似るかのお。二人とは違う選択肢もあるが」




 3人の会話がひとしきり終わると、ミエールさんは自分を凝視し始めた。その様子を両親は後ろから見守っていて変に緊張する。どういう結果になるのかもちょっと気にはなるしな。




 「数多の神よ、其方達の子に相応しきお導きを。【運命の指針眼フェイト・ガイラス】!!」




 ミエールさんはなにかを唱えるようにつぶやくと、自身の目にヒスイ色のオーラのようなものを纏い出した。これがミエールさんの魔法で、それを使って予言するようだ。ちょっとカッコイイかも。




 「………」




 「………」




 沈黙が続くなか、ミエールさんは虚空に向かって指を動かしながら凝視してくる。ミエールさんがなにをしているのかは全くわからんが、結果が気になってドキドキしてきた。




 「んー、これは…」




 「ど、どうかしたんですか?」




 ミエールさんの顔にしわが寄るのを見た父は、不安そうな顔でミエールさんに問いかける。まさかとは思うが、あんまりよくない結果でも見えたのだろうか。両親の不安そうな表情を見てると、こっちも不安になってくる。




 「お前さんと同じような綺麗な炎が見える。いや、お前さん以上に鮮烈じゃわい。正直、ここまで綺麗な魔力は見たことないわい」




 「ほ、本当ですか!?」




 「えっえっえっ、うるさいぞイノス」




 しかし、自分たちの思っていた結果とは真逆な答えが返ってきて、父は興奮のあまり鼻息を荒くしてミエールさんに詰め寄っていた。たしかにうるさいなこの人は。




 「えっえっえっ、間違いなくこの子は将来、勇者になるぞい」




 「「ゆ、勇者!!??」」




 「えっえっえっ、二人ともうるさい」




 さらに興奮する父と、あまりの衝撃で驚きを隠せない母が初めてハモった。母がそこまで驚く姿は初めて見たかもしれない。




 「そ、そうか。うちの子にそこまでの素質があるなんて」




 「えっえっえっ、わしの魔法で見ているから間違いない。それだけの素質は十分あるよ」




 「ええ。ミエールさんの魔法の凄さは町中、いや、国中の人が知ってますから。俺が騎士団の副長にまでなれたのも、幼い頃にミエールさんに見てもらったおかげですし」




 それは意外な事実だったが、ミエールさんを呼んだ理由には納得した。父も自分の将来をミエールさんに見てもらい、その結果今の父が居るわけだからな。話を聞いていると、ミエールさんの予言的中率はかなり高そうだ。




 「いいかイノス、わしの魔法は、魔力の資質と魔力量から導き出された可能性の一つを見せてくれるものなんじゃ。その道だけがその子の人生とは限らん。わしの予言どおりに行かなくとも幸せな生活を送っておる者もおる。だから、この子の人生はこの子自身で決めさせるんじゃぞ。まあ、その道に進ませるというのも一つの手ではあるがのう、えっえっえっ」




 「は、はい」










 「今日はありがとうございました」




 「えっえっえっ、久しぶりにええもの見せてもらったのお」




 自分の予言を聞いたあと、母がお茶菓子を出して談笑していた。それからひとしきり話し合っていると、そろそろ帰ると言って、ミエールさんは席を立った。




 「イノス、子の可能性とは無限大である。わしは一つ道を示したとはいえ、無理にレールに乗せる必要もあるまい。それに…」




 「それに?」




 「…いや、なんでもない。えっえっえっ」




 「は、はあ」




 「それじゃあのう、二人とも。これからも仲良くな」




 「本当にありがとうございました」




 「よかったらまた来てください」




 ミエールさんは最後なにか言いかけていたようだが、言いかけた言葉を飲み込み帰って行った。それにしても、自分が勇者か。ミエールさんの予言はかなりの確率で当たるようだが、正直自分には、全然未来のビジョンが見えてこない。自分が勇者になれる素質があることにまるで実感が沸かないのだ。そりゃあそうか、前の世界では勇者なんてものはフィクションでしかないのだから。




 勇者は魔王を倒すための存在で世界中の人々の希望にもなりうる存在。そんなものに自分みたいなのが果たしてなれるのだろうか? 




 いや、別にならなくてもいいのか。ミエールさんも道は一つじゃないって言ってたし。




 前世は酷い最後だった。ただ普通に生きていただけなのに、わけのわからぬまま殺されたんだから。せめて、そんな人生だけは送りたくない。そうだな。それなら、父みたいに騎士団に入って、家族作って、ここで普通に暮らせる人生を送りたいな。それが今の自分にとっての理想なのかもしれない。そう考えると、勇者になる必要なんてない。ある程度身を守れるぐらい強くなれればいい。うん、それがいい。そうしよう。




















 わしの魔法は、魔力の資質と魔力量から導き出された可能性の一つを見せてくれるもの。正確には、それを統合した魔マナを、一本の線として見ることが出来る。その線をわしは魔筋マナスと呼称している。魔筋は人によって多種多様に変化する。同じ魔筋が二つ以上存在するのは珍しいくらいじゃ。そのうえ、魔筋は一人の人間に無数に存在しており、筋肉の筋より数が多い。




 魔筋に触れると、色や太さ等が変化する。それが人の一生を表している。明るい色になれば幸せが訪れ、暗い色になれば不幸の予兆。わしは大勢の人の魔筋を見て研究し、人の未来を知ることが出来るようになった。それが予言師になるきっかけだった。




 予言師になって80年以上のわしだが、あんな魔筋を見るのは初めてだ。確かに、イノス以上に鮮やかな紅蓮の色。魔法の素質はあの男より持っているから、イノスが鍛錬を積ませれば騎士団団長クラスいや、勇者に匹敵する力はある。相性属性もイノスと同じ火属性だし。




 しかし、気になるのは魔筋の色。鮮やかな赤色から真っ黒く変色している部分が3箇所ほどあった。黒は死、もしくはそれに匹敵するだけの過酷な運命を表している。それが三つもあるとは。




 死はどんなものにでも起こりうる未来。だから一つ存在することは必然。稀に二つあるものもいるが、三つは異例だ。しかも、その一つがそう遠くないうちにある。




 言おうかどうか迷った。だが、どんなことが起こるかわからない以上、言ったところで気を付けようがない。わしが魔筋に触れようとしたとき、一つの魔筋がわしの指を引き寄せられるように触れて来た。まるで、運命に導かれているかのように。




 避けられない運命なのかは正直わからない。あんなことが起こったのは初めてなのだから。




 「…イノス。お前さんの息子はとんでもない運命を背負されてしまったのかもしれないのお」




 あの子がどういう運命を辿るのかはおそらく、神のみぞ知ることなのだろう。




  ―勇者が死ぬまで、残り9760日

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