第2章ー15
「よいっしょ、と」
祭壇の下は抜け道になっており、そこを通ると、さっきまで自分が閉じ込められていた小屋の近くにある井戸へと繋がっていた。
井戸の内壁には梯子代わりの足場が等間隔に設置されており、子供でも登れる造りになっている。
「魔物は……よし、大丈夫そうだ」
地上へ出る直前、周囲の気配を探る。
おそらく奴らはエイシャのもとに集まっているのだろう。
「みんな、上がって来ていいぞ!」
先に自分が地上へ出て声をかける。
それを合図に、子供達が一人ずつ井戸を登ってくる。
――
「よし、これで全員だな」
最後の一人が出てきたのを確認する。
ミオのおかげで、皆が自分の言葉を信じ、ここまで来てくれた。
本当に、彼女には感謝しかない。
「こんなところ、よく知ってたわね」
「ん? ああ……昔、父さんに聞いたことがあったのを思い出してさ」
生きていた頃、父に連れられて教会を訪れたことがある。
そのとき、教会の地下には“非常時の避難経路”があると、なぜか得意げに語っていた。
今になって、その話が命綱になるとは思わなかった。
この井戸は水路には繋がっていない。
外から見ればただの井戸――完全なカモフラージュだ。
避難経路の存在が敵に知られれば、待ち伏せされる危険がある。
だからこそ、外部に痕跡を残さない造りになっているのだろう。
「さて、作戦をもう一度確認する」
思考を切り替え、全員の顔を見渡す。
この村から脱出するために、やるべきことは二つ。
一つ目――魔障結界の解除。
これが解けなければ、村の外へは出られない。最優先事項だ。
二つ目――移動手段の確保。
結界を抜けても、徒歩で魔物から逃げ切るのは不可能に近い。
皆が俺のように跳躍術を使えるわけじゃない。
乗り物は必須だ。
「魔障結界は、おそらく儀式で維持されている。
なら、儀式に使った方陣や核を壊せば、結界は解けるはずだ」
「どうしてそう言えるの?」
「これだけの規模の結界を常時張るには、個々の魔力や魔道具じゃ維持できない。
儀式なら、一度完成させれば半永久的に動かせる。
――一番、理にかなってる」
「でも、方陣がなかったら……」
「必ずある。
もし解除できない結界なら、奴らが“村を捨てる”理由がない。
外敵から守るなら、ここに居続けた方が安全だからな」
ミオが小さく頷く。
「儀式の発生源は、魔造種を貯蔵していたあの家だ。
人間が近づきにくい場所だから、隠すならそこが最適だ」
禍々しい魔力が漂うあの建物。
長居すれば正気を削られる。
だからこそ、重要なものを隠すにはうってつけだ。
「ミオ、結界解除はお前に頼む。
風と治癒魔法が使えるお前なら、ある程度は耐えられるはずだ」
「う、うん。
魔力酔いを抑える簡易術なら使える。
効き目は保証できないけど……やってみるよ!」
結界解除担当はミオ。
家ごと破壊する案もあったが、地下に核がある可能性を考えると危険すぎる。
「次に移動手段だ」
視線をラエルへ向ける。
まだ完全には納得していない顔だが、ここまで来た以上、腹を括るしかない。
「馬小屋で馬を確保するんだろ?」
ラエルが察したように言う。
俺は黙って頷く。
普通の馬は魔障の影響で既に死んでいる。
代わりに魔物が使役する《魔道馬》がいる。
見た目は多少厳ついが、乗る分には問題ない。
「荷車も必要だ。全員を乗せる」
「それなら確認した。
馬小屋の横に一台あったよ」
「助かる」
この人数なら十分だ。
「最後に――俺が囮になる」
全員が息を呑む。
「皆が動きやすいよう、魔物の注意を引きつける。
戦えるのは、今のところ俺だけだからな」
「あわよくば数体は削る。
……が、深入りはしない」
無謀だが、必要な役目だ。
「作戦開始のタイミングは各自の判断でいい。
貯蔵庫と馬小屋から、できるだけ魔物を引き離す」
もう時間はない。
気づかれる前に動くしかない。
立ち上がろうとした、その時。
「サダメ!」
ミオが名を呼ぶ。
「ん?」
彼女の瞳は真っ直ぐだった。
「絶対に――死なないで」
その言葉は、祈りではなく“命令”だった。
――そうだ。
俺も含めて、全員で生きてここを出る。
「ああ!!」
強く頷き、
脱出作戦は――今、始まる。




