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転生勇者が死ぬまで10000日  作者: 慶名 安
2章 脱出編

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第2章ー12

 この村を捨てる。

 つまり――この村には、もはや存在する価値がないということだ。


 勇者の脅威が迫っているとはいえ、あれほど大量に生産していた魔造種を、そう簡単に切り捨てられるものなのか。

 あれは奴らにとって必要な“資源”ではなかったのか。


 「……」


 だが、すぐに考えるのをやめた。

 ――もう、どうでもいい。


 村が捨てられるなら、ここにいる子供達は全員処分される。

 自分も含めて。


 奴らにとって、自分達の存在価値などその程度だ。


 ……なら、悪い話じゃない。

 ようやく楽になれる。

 この苦しみから解放されるのだ。

 皆も、同じだ。


 ――本当にそうか?


 不意に、自分自身の声が胸を刺す。


 あの子達は、どんなに苦しくても生きようとしていた。

 僅かな光を信じて、必死に手を伸ばしていた。


 『それでも、私は生きたいと思うよ』


 昨晩、ミオが口にした言葉が蘇る。

 あれは自分を励ますための綺麗事だと思っていた。

 だが――もし、あれが本心だったなら?


 「……くっ……!」


 胸の奥が軋む。

 涙が、勝手にこぼれた。


 ――なんで自分は、真っ先に諦めていた?


 あんな幼い子供達が必死に生きようとしているのに、

 大人である自分が、ただ死を望んでいただけだった。


 「……ダメだ。

 あいつらを、死なせるわけにはいかない」


 父と母の死を目の当たりにし、絶望の底に叩き落とされた。

 助けなど来ないと思っていた。

 生きる意味も失っていた。


 ――だが、今は違う。


 勇者は実在する。

 しかも、すぐ近くまで来ているかもしれない。


 ならば、それまで子供達を生かせばいい。

 この村から逃がせばいい。


 「……ふんっ!!」


 拘束された手首をひねり、炎魔法を灯す。

 縄が焼け、焦げ、崩れ落ちる。

 皮膚がわずかに焼ける匂いがしたが、痛みはほとんど感じない。

 殴られすぎて、感覚が鈍っていた。


 「……よし」


 身体はまだ動く。

 違和感はあるが、走れる。戦える。


 ――この頑丈な肉体に、初めて感謝した。


 「さて……ここからだ」


 時間はない。

 だが最大の障害が残っている。


 「魔障結界を、どうするか」


 結界を解除できなければ、脱出は不可能。


 ――解除方法を探る。


 一つ目。

 術者が常時維持している可能性。

 だが、これほどの広範囲結界を保つには莫大な魔力が必要だ。

 魔物といえど、現実的ではない。


 二つ目。

 魔道具による発動。

 魔力を内蔵した道具なら維持は容易だが、消耗や劣化は避けられない。

 長期間安定している現状とは噛み合わない。


 三つ目。

 ――儀式型。


 一度成功すれば、魔力供給なしで半永久的に発動する。

 準備は煩雑だが、奴らの性質を考えれば十分あり得る。


 最も可能性が高いのは、この儀式型だ。


 そして三つに共通する点がある。

 ――発生源が、村のどこかに存在するということ。


 ならば、それを破壊すればいい。


 「発生源を探しつつ、あいつらにも逃げる準備をさせる」


 やるべきことは多い。

 時間は少ない。

 一人では限界がある。


 ――子供達にも協力してもらうしかない。


 「……」


 だが、今さらどの口で頼めばいい?

 特にラエルには、何を言われても反論できない。


 ――それでも、やるしかない。


 「何を馬鹿なこと考えてる……!」


 自分の頬を叩く。

 痛みは鈍い。だが、意識ははっきりした。


 「待ってろ。

 絶対に――皆、助けてやる」


 決意を胸に、小屋を飛び出した。


 生きるために。

 子供達を守るために。

 この地獄から、必ず脱出するために。

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