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転生勇者が死ぬまで10000日  作者: 慶名 安
1章 転生編

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第1章ー18

 奴の言っていることが、どうしても理解できなかった。

 あの結界からは逃げられないはずだ。それに、つい先ほどまで奴の姿は確かにそこにあった。――また適当なことを言って煙に巻こうとしているのか。


 「『私の影魔法の特性は、あらゆる影を手中に収め、意のままに変幻自在へ操れること。影を用いて生物を生成することも可能ですが、それだけではありません。私自身を、他の影へ移動させることもできるのです』」


 「?! どういうことだ……?」


 「『その特性を使って逃げたのですよ。彼の影へ』」


 「っ?!」


 一見すると荒唐無稽な話だ。

 だが――あの戦いを見ていた自分には、なぜか理解できてしまった。

 この言葉に嘘はない、と。


 他の影への移動。

 つまり、他者の影へ潜り込むことも可能だということ。

 父が背後から貫かれた事実を思い返せば、背後の影へ移動した――そう考えると、全てが繋がる。


 「じゃ、じゃあ……あの時の魔法は……」


 「『魔法? ああ、あれはただのブラフですよ』」


 「……な、に?」


 「『影を集めて、それっぽい形に成形しただけの塊です。どうでした? それなりに“強大な魔法”に見えたでしょう?』」


 言葉を失った。

 あれほど巨大な影を一瞬で集める魔力量も異常だが、それが攻撃魔法ですらなかったという事実が、さらに常識を破壊する。


 「『彼の実力を認めていたのは事実です。だからこそ、正面から戦うのは危険だと判断しました。ならば、いかに欺いて殺すかを考える。中途半端な陽動は通じない相手でしたからね』」


 魔物は淡々と語る。


 「『そこで私は、“全力で戦っているフリ”を演出した。魔法と言葉を操り、彼に信じ込ませたのです。――正々堂々と渡り合える相手だと』」


 「……っ!」


 「『案の定、彼は私の真意に気づかぬまま、全力の魔法を放った。――そちらにいたのは分身体だというのに』」


 「くっ……!」


 歯が軋む。

 もしこの言葉が真実なら、父は実力で負けたわけではない。

 勝てていたかもしれない戦いを、“欺き”によって奪われたのだ。


 「『彼の敗因は、相手の言葉を受け入れてしまったこと。ただそれだけです。殺し合いの場では、その“わずかな隙”が死へと直結する』」


 魔物の視線が、まっすぐこちらを貫く。


 「『君にとっては、良い学びになりましたね。――まあ、だから何だという話ですが』」


 「っ?!」


 魔物は語り終えると、こちらへ歩み寄り――そのまま通り過ぎた。


 どこへ向かう――?


 「きゃあああああっ!!」


 母の悲鳴。


 「っ?! 母さん!」


 振り向けば、巨体の魔物が母の髪を掴み、地面へ押さえ付けていた。

 しまった。父の死の衝撃に囚われ、母の存在を忘れていた――!


 「『さて。この勝負、私の勝利ということで』」


 「や、やめ――ぐっ?!」


 駆け出そうとした瞬間、背後から強烈な蹴りが叩き込まれ、前のめりに倒れ込む。

 いつの間にか、他の魔物たちが周囲を取り囲んでいた。


 「くっ……そ……っ、があっ?!」


 背中の痛みに耐えながら起き上がろうとするが、複数の魔物に押さえ付けられ、身動きが取れない。

 魔力では劣るはずの相手に、純粋な腕力で完全に制圧されていた。


 「『戦利品は、この村のすべて。元々略奪目的で来たのです。勝ち負けなど最初から存在しません』」


 魔物は愉快そうに続ける。


 「『もっとも――君が私を倒せるなら、話は変わりますがね』」


 「くっ……!」


 煽られても、何もできない。

 今の自分にできるのは、ただ涙を流すことだけだった。


 こうして、自分たちの平和な日々は突然終わりを告げ、地獄の時間が幕を開けた。


 ――転生勇者が死ぬまで、残り8169日。

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