第1章ー⑪
「煉獄に誘いし炎獅子よ。
我に汝の永遠に燃ゆる炎を貸し与え、悪を滅却せしめよ――」
「ギギイィィィィ!!」
詠唱を開始した瞬間、小鬼達が一斉に襲いかかる。
ここで止めるわけにはいかない。
「『ッ?!』」
業火剣一本で猛攻を捌く。
他の魔法は使えない。
すべてを防ぐのは不可能――だから致命傷になる攻撃だけを叩き落とす。
幸い、小鬼達は魔法を持たない。
武器は鋭い爪と、肉を噛み千切る牙のみ。
最優先は噛みつき。
喰らえば肉を削がれ、体勢も崩される。
飛びかかる個体は即座にはたき落とす。
次に厄介なのは引っ掻き。
長く鋭い爪は、掠めるだけでも深手になりかねない。
身体を引き、致命傷だけを避ける。
「力を与えよ。我と共に、悪名轟く魔の種族へ裁きを下さん!」
詠唱と同時に戦う。
集中力が削られる。
魔力感知と動体視力を限界まで酷使。
――懐かしい感覚だ。
騎士団時代、幾度も潜り抜けた死線。
あの頃に比べれば、衰えたものだな。
「――――――――――!!!!」
遅れてゴーレムが迫り、拳を振りかぶる。
小鬼達は攻撃を止め、散るように逃げた。
「悪逆無道、灰燼に帰せ。
【煉獅子・装炎獄・誘灰武者】!!」
「――――――――――!!」
拳が振り下ろされる。
同時に、詠唱が完了する。
――間に合うか?
刹那。
大気中の魔力が炎へ転じ、俺の身体と剣に絡みつく。
炎は獅子を模した鎧となり、剣は赤熱の刀へと姿を変える。
間に合った。
新たな刀で拳を受け流す。
本来なら折れて当然の細身の刃が、嘘のように衝撃を受け流す。
「はあっ!!」
「?!」
体勢を崩した巨体へ、一閃。
たった一太刀で、ゴーレムは仰け反り――倒れた。
泥のように崩れ、地へ沈み、消滅する。
「『……あのゴーレムを、一撃で?』」
エイシャが息を呑む。
表情は見えない。それでも動揺は伝わった。
「グッ、ギギィ…」
小鬼達も警戒へ転じ、俺を囲む。
だが一体が痺れを切り、背後から飛びかかる。
「ギギィィ!!」
全方位からの襲撃。
詠唱の暇はない。
――少しだけ、上げる。
「【上限解放・壹】!」
背の太陽紋が一回転する。
身体が羽のように軽くなる。
「ギ…ギッ?!」
次の瞬間。
小鬼達の首が、すべて宙を舞った。
気づく暇すら与えない、完全な瞬断。
疑問の表情のまま、影は地へ溶けて消える。
「『…ほほう』」
エイシャが感嘆の声を漏らす。
「『全魔力解放系の最上級魔法。しかも独自構築――素晴らしい。名前以外は』」
「ははっ。改良に改良を重ねた自信作なんだがな。まさか魔族にネーミングを弄られるとは思わなかった」
「『全魔力解放は人間には致死的行為。その装備でリスクを緩和している、と』」
「……分析が早いな」
図星だ。
全魔力解放は、自壊の危険を伴う。
人体にはリミッターがある。
魔力にも同様に制限がかかっている。
だがこの装備は、五段階に分けてそれを解除する。
背の紋章が回るごとに二割ずつ解放。
徐々に身体を慣らし、百%へ至る。
騎士団時代、使ったのは数度だけ。
危険すぎる切り札。
だが今は違う。
相手は魔王軍幹部。
出し惜しみして勝てる相手ではない。
「【上限解放・貮】!」
再び紋章が回転。
さらに身体は軽く、世界が遅くなる。
「悪いが――ここからは反撃の時間だ。覚悟しろ」
全身と刀に炎が奔る。
俺は踏み込み、反撃へ転じた。




