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戦の前に

 近衛団の本部は動揺していた。

 さすがに魔獣が転移で襲撃をかけて来るとは想定外だったようで、対処法が考えられておらず、絵に描いたような浮足立ちの様相を見せていた。

「黒さん、いよいよみたいだ」

 窓から外の様子を見ていた良二の声はそれほど焦ってはいなかった。

 近衛団の混乱をよそに、良二はもちろん、誠一も比較的落ち着いていた。近代戦をある程度知っている彼らにとっては、この急襲も予想の範囲内ではある。

 アデスでも潜伏や回り込んでの後方攪乱、挟み撃ちという戦術はあるだろうが空からの地上戦力の大量降下は彼らにとっては想定外であったろうか。

「前線を越えての魔獣転移……まるで空挺作戦だな」

「ブレーダー閣下が歓迎会で似たようなことしてたね。後方のかく乱で守備隊を引き付けてミカドは悠々と向かってきそうだよ」

「こちらとしても一般兵たちは宮殿近辺から離れてもらった方がいい。ライラちゃんたちが結界を張ってくれるとは言え、巻き添えになる連中がいては俺たちも8魔王としても気が散るのはよろしくない。シルヴィ分隊長! 小隊長を呼んでくれ」

「はい! 小隊長!? クロダ少佐が!」

 各分隊長たちと対応を協議していたラム小隊長が、シルヴィの声に気付き、こちらに向かってきた。

「お呼びですか、クロダ少佐」

「小隊長。残存近衛団は総員、フィリア殿下の直衛部隊と合流してくれ。王都内に侵入を許した限りは内側から門が破られるのは時間の問題だ。今に外の魔獣がなだれ込んで、王都の通りは魔獣だらけになる。身動きが取れなくなる前に、お屋敷に移動しろ。おそらくはそこで籠城することになるだろう」

「しかし、ここを空にする訳には……」

「キミたち近衛団の任務は王族であるフィリア殿下をお守りすることだろう? 留守は我々に任せろ。移動中も魔獣と会敵するだろうから、爆裂筒や錫杖の使い方をアレジンのおやっさんたちから指南してもらってくれ。お屋敷に到着するまでに使いこなせるようになれ」

「わ、わかりました。直ちにかかります! 留守中何とぞ、よろしくお願いします!」

「こちらこそ、フィリア殿下を宜しく頼む。おやっさん、そういうことだ、そちらも全員近衛団の直接支援について行ってくれ」

「わかった、まかせい」

 そう返事するとアレジンたちも移動準備のため、近衛団に続いて隊舎出口に向かった。

「少佐、宮殿敷地内にもかなり降りてきてるわ。近衛団もすんなり出発ってわけにはいかないんじゃない?」

 カリンの言う通り、敷地内に降下した魔獣は窓から見ただけでも結構な数が確認できる。しかも一角兎あたりの雑魚ではなく、牛頭鬼やオーク(クラス)の大物ばかりである。爆裂兵器があると言っても近衛団だけでは荷が重いかもしれない。

「黒さん、俺たちが道を開こう。ミカドが現れても、最初は魔王たちが相手するはずだし」

「ああ、人員も弾薬も届けてもらわにゃならんしな」

「先輩、戻らなくて本当にいいんですか?」

「大丈夫だよ、侍女長たちと近衛団、それにクロさん考案の火器があれば、そう簡単には墜ちたりはしないさ」

(予は、まだまだ出番は無さそうじゃな?)

「ミカちゃんはウチの切り札だからね。今のうちに、ゆっくりしててちょうだいね?」

「史郎くんを取り戻す時はあんたが頼りだから。お願いね?」

(おお、まかせとけ)

 ミカは容子たちにすっかり馴染んでいるようだ。すでに遊撃隊の8番目の隊員と言ってもいいくらいだ。

 しかし懸念するところもある。彼女はもともとミカドなのだ。

 一見(まあ肉眼では見ることは出来ないが)一つの人格としてみんなと遇してはいるがこれは不完全な人格である。本来は、今攻めてこようとするミカドとで、一つの人格のはずなのだ。

 ミカはミカドの存在を知ってはいるが、ミカドはミカの存在に気が付いているだろうか?

 今回の戦いにおいて良二ら遊撃隊にとって、ウドラ渓谷の谷底でも見せたミカによる魔力の底上げ、複数同時接続による同期技等は必要不可欠である。

 途中で離脱、もしくはミカドに吸収されることは何としても避けたいところだが……

「何か気になる事でもあるのか?」

 誠一が容子らの耳を憚りながら小声で聞いてきた。

「え? そう見えた?」

 顔に出ていたのであろうか? 

「ん……ミカの事がね……」

「ああ、あいつの事か? そう言えば、ミカといい、メリアンといい、お前の嫁は女にモテるなぁ」

 いや、そう言う事じゃねーよ。良二は徐に眉を歪めた。

「ハハ、こんな時にヘタな冗談だったな。お前の気になる事はミカとミカドがどうなるか、かな?」

「今回の俺たちの目的……沢田くんを取り戻して、魔法陣を守り、日本への帰路を確保すること……それにはミカの手助けが絶対必要だ。なによりミカドと対峙するにも彼女の魔力底上げ技が無いと俺たちだけでは……」

「まあ、そのへんはな。ミカと容子の愛を信じるしかあるまい?」

「あのさぁ?」

 良二は頭を掻きむしりたくなった。

「やはり俺も緊張してるな。気の利いたことが全く思い浮かばねぇ」

 苦笑しながら零すように誠一。

「でもよ、そいつはあれこれ考えても仕方ねぇ。有っても無くてもおかしくない、くらいに思っておけや。信じられんとパニクるより、そうなった場合、どう動くか? を判断出来るように心がけておく、くらいじゃねぇか?」

 ――有っても無くてもおかしくない、か。

 もしも俺がライラやカリン、容子のために誠一に刃を向ける、そんな事になったら……

 黒さんはどんな顔をするのだろう?


「クロダのだんな!」

 アレジンの工房の職人が部屋に飛び込んできた。

「だんな! ウチも近衛団も出発準備は出来た。でも隊舎出口にオークが3頭いるんでさ!」

「わかってる。よし、みんな聞け」

 全員が誠一に注目した。

「俺と良が二階の窓から飛び出してオークを仕留める。容子、美月以下の全員は脱出組の馬車に付いて通用門まで護衛しろ」

 了解! 遊撃隊全員が返事する。ついで職人にも、指示。

「通用門は俺と良で開ける。脱出組はそこから一気に通り抜けるよう伝えろ! わき目もふらずフィリア殿下の屋敷に向かえ!」

「承知しやした!」

 かかれ! 誠一が号令し、皆一階の隊舎出口に向かった。

 良二と誠一は二階廊下を移動、隊舎出口の上に出向いた。

「出口付近にオーク3頭。通用門までは牛も含めて4~5頭くらい?」

「良、どれくらいかかると思う?」

「出口のオーク3頭は奇襲だから5~6秒、そのあと通用門まで移動を含めて30秒くらいかな?」

 プ! 誠一が噴き出した。

「え? 何かおかしかった?」

「すまん。いや、俺たち、ナルの村でオーク1頭に、その十倍以上の手間かけてたなぁって思い出しちまってよ」

 言われて良二もその時のことを思い出し、そう言やそうだ、とやはり軽く噴き出した。

「あいつらにしたら俺たちの方がバケモノだな」

「奴らも運が悪いね」

 二人はニヤリと笑い、顔を見せあうと窓を開け、身を乗り出した。

「いくぜ!」

 誠一の掛け声とともに二人は窓からオークに向かって飛び降りた。

 ――ダアアアアァァー!

 気合いの入った雄叫びをあげながら良二は水剣、誠一は光剣を起動させ、二人に気付いて上を仰いだオークの顔面にその刃を叩きつけた。

 文字通りの一刀両断。二人の魔法剣はまるで測ったようにオークのど真ん中を斬り裂き、股間まで切り抜けていく。

 4つの肉塊になったオークの身体が地面に崩れ落ちるが早いか、良二は水剣をもう一頭のオークの腹に切りつけた。

 良二に遅れる事コンマ数秒、崩れかけたオークの肉塊を足場にジャンプし、誠一の光剣は三体目のオークの肩から脇にかけて袈裟斬りに振り下ろされ、肺と心臓を斬り裂かれたオークは瞬時に絶命した。

 窓から飛び降りてからこの間6秒ないし7秒、3頭のオークは見る間に肉塊と化すこととなった。

「黒さん、ちょっと遅れたね? やっぱ歳?」

「ほざけ、3頭目の止めは俺だぞ?」

 誠一は、クリア! と叫びながら扉をドンっと叩くと、良二と共に駆け出し、通用門までの脱出路を確保するべく立ちはだかる牛頭鬼に突撃していった。

 後方では隊舎出口の扉が開き、近衛団を乗せた馬車が走り出して来た。

「もう! なにがクリアよ! 倒すのはいいけど後始末もやっときなさいよ!」

 馬車に付いていた容子は文句どぶつきながらも超突風を繰り出し、通路上を邪魔している肉塊を吹き飛ばして道を確保した。

「良、左!」

「OK!」

 良二は誠一の指示通り通路の左に立つ牛頭鬼に狙いを定めた。

 ブーストをかけ、一気に距離を縮めると水剣を3mの長剣モードにし、牛頭鬼の間合いの外から胴を斬り払い上下真っ二つにする。

 後ろで容子がブー垂れていたのが聞こえたので、死体が通路に倒れて邪魔しないように脚に身体強化をかけて残骸を思いっきり蹴り飛ばし、通路外に弾き出した。

「主様! 門外周辺200mに魔獣はいません! そのまま開門してください!」

 シーナが門の外周付近を索敵し、安全を確認した。

 誠一は2頭目の牛頭鬼を屠ると通用門を開けた。

「ありがとうございます! クロダ少佐! キジマ中尉!」

 シルヴィ以下、各分隊長やラム小隊長が声をかけていく。

「おう、殿下を頼むぞ!」

 最後の馬車を見送ると、良二と誠一は再び通用門を閉じた。

「あたしにも獲物、残しておいてよぉ」

 物足りなさそうに美月がブー垂れる。

「美月は対ミカド戦の要だ。魔力は出来るだけ温存しておいた方がいいよ」

 良二がそう言ってなだめると、美月もフーっとひと息ついて取り敢えず納得した。

「リョウジ、少佐、このまま敷地内の魔獣、片付ける? それとも他に何か?」

 美月同様、暴れ足りず消化不良のカリンも昂る血を抑えようとしているみたいだ。

「委員会本部に被害が無ければ出張る必要もないか、とは思うが。一旦、近衛団舎内に戻って様子見するか?」

「でも、このかく乱はミカドによる魔獣操作なのは間違いないし、奴が動き出すのは時間の問題だと思うけど……実際ミカドがどう、やって……」

 良二は日の出が始まった東側から南の方へ眺めるように視線を移していた。

「黒さん……」

 南門の更に向こう側の空が、いつの間にか東側並みか、それ以上に明るくなっている。

 いや、東の日の出の明るさとは違い、空全体が明かるいのではない。明るいのは一部だけに見える。しかもその一部から降り注いでいる、光る何かが周りを照らし出しているのだ。

「動き出したのかな? しかし、なんだありゃ?」

「黒さん、あの光……見覚えない?」

 良二は何故か、あの陽の光や焚火、かがり火の明るさとは違う、むしろ照明魔石の輝きに近い明るさ……何かこれに見覚えがある気がした。それも、それほど遠くない過去に。

「……渓谷の底か?」

 良二に倣って南の空を凝視していた誠一がぼそっと言った。

「そうだよ、谷底のあの光だ」

 良二も思い出した。

 ウドラ渓谷の、陽の届きにくいあの谷底が何故か足元くらいは見えていたあの明るさ、あれの色合いにそっくりな光。もちろん光量は段違いに強く見えるが。

「魔素……魔素の輝きですわ、主様!」

(そうじゃ、あの谷の澱みからも降ってきておったアレと、同様のもんじゃな)

「魔素が降り注いでいる……。そうか。魔界や人間界のあちこちで起こった魔獣の共喰いと異常に速い風化……その中で魔素が魔石並みに精製されて……」

「クロさん! 魔素が出てくる穴が増えてるっす!」

 言われて良二も、もう一度上空を見た。降り注いで来る穴の数が増えている。5つ、6つ……いや10を超えてきている。

「転移……いえ、魔界や他国の地域から門が開いて、魔素が噴き出しているんじゃないかしら?」

「ヨウコの言う通りでしょうね。門からの魔素が渦を巻いて集まり始めている……文字通り第二次魔素異変だわ」

 ミカドが来る…… 

 良二ならずとも、これが奴が現れる前触れである位はわかるだろう。ついに奴が来る。

「外壁の外か……ライラちゃんたちの結界が張られる前に魔素を集束させる気だな。しかし集束させる目的がまだわからんなぁ」

「黒さん、調べに行こうか? あの光の下に史郎くんがいるならあたし……」

 美月はそこに駆け付けたいと言わんばかりの眼をしていた。

 無理もないことではあるが、しかしそれはまだ時期尚早だ。良二は美月を押さえるように言った。

「美月、気持ちはわかるがまだ早い。奴の手の内はまだ不明だし、ミカド自体、未だ姿を見せてるわけじゃない。最初に対峙するのは魔王たちって段取りだしな、俺たちの出番はその後だ」

「でも史郎くんがやられちゃったら……」

「その辺は、ラーやローゲンセンに頼んである。出来る限り、ではあるけれど、彼らがミカドを制圧できるなら何とかしてくれるだろう」

「う~~」

 美月はしぶしぶ承服した。以前、裏切りと言われてもおかしくはない事をして皆に迷惑をかけてしまっただけに、そう強くは我を通せない。

「潮目が変わって来たわね。少佐、どうする?」

 カリンが聞いた。

 誠一は腕を組み、顎に手を当てしばし考え込むと、良二たちに向かって言った。

「メシ食おうぜ」


 …………………ハァ?


「メシだよメシ。戦の前には腹ごしらえだ」

「黒さん、ちょっと!」

「隊長! ふざけてる場合じゃ!」

 良二も容子も誠一に諫言する。シーナやメアも変な顔をしているが、誠一の顔は至って普通であった。

「あの状況からすればヤツは今現在、魔素集束制御の真っ最中だ。ミカド本体が現れるのは魔素の集束が完了してからだろうな。奴がそれで何をするかだが、それは奴が現れてみないとわからんだろな。まあ、それがある程度判明した時点で8魔王が仕掛けるだろう。俺たちの出番はそのあとだ。その時、腹が減ってちゃ戦は出来ねぇ。そりゃこんな時に食い物は喉を通りにくいかもしれんが、食えるのは今の内だけだ。朝メシにしてもいい時間だし、食っておこうぜ?」

 良二は、しばし呆けた顔で聞いていたが、やがて首を振りながらフフッと笑いを漏らした。

 さすがに緊張しているかと思ったが、誠一はやっぱりいつもの誠一だと知ってちょっと安心したのだ。

「相変わらず敵わないな黒さんには……ああ、俺も付き合うよ。近衛団用に過給食が置いてあったよね?」

「ハ! あきれて良いのか頼もしく思って良いのか分かんないわね? ふふふ、いいわよ私も付き合うわ!」

「ハイハイ、分かりましたよ。隊長ってそう言うキャラよね」

「もう、主様ったら」

「食べ過ぎると身体の動きが鈍くなるっす。八分目……いや七分目でいいっすね」

「スィーツ無いのかな~。こういう時は甘いものでしょ!」

(予は何も食うことは出来んな~。つまらん)

 7人……いや8人は半ばヤケとも言えたが、最後(?)の食事をとるために宿舎内に戻って行った。


                ♦


 戦いを前に、メシにありつこうとしている特別遊撃隊と違い、委員会の作戦本部内は火事場さながらの大騒ぎになっていた。

 転移による魔獣襲撃の対応に加え、南門方向に現れた光、魔界や人間界の各地からの門が開かれ、そこから魔素が降り注いでいる。その対応や情報収集が混乱を極めており、魔獣の襲撃による影響か、あちこちとの連絡も寸断されているらしく情報の伝達に支障が出て来ている。

「南門の星龍王は何と言ってきている?」

 ホーラの問いにラーが答える。

「上空に開いた門からは夥しい魔素が降り出している模様です。まるで魔素異変を再現しているみたいだと」

「ミカドはまだ現れんか?」

「今のところはまだ……」

「なんなら魔界組は南門に出張るか?」

「待てプロマーシュ。貴様らが動くのは、やはりミカドがはっきり姿を現してからの方がよかろう。この現象自体が陽動とも考えられるからな」

「……待つしかねぇか」

 プロマーシュは椅子に座り直し腕を頭の後ろで組んで目を瞑った。

「ヴィニキューラ殿、ローゲンセン殿、今現在、流れてきた魔素量というのは如何ほどでござるか? 当初の計画のミカドを新生するほどの量には届いておりまするか?」

 魔界の老賢者と並び、科学のみならず、様々な学問に造詣の深い絆の最上級神ヴィニキューラは、ローゲンセンと共に魔素の流入現象を分析している最中であった。

「現地で確認できないのはもどかしいわね。送られてくる情報だけでは即答できないけど、発光するほどの魔素濃度は500年前の時でも確認できたのは第6次作戦の時だけよ」

 プーグナの質問に、次々送られてくる報告書に目を通しながらヴィニキューラが若干イラつき気味な口調で返事した。

 金髪痩身、パッチリとした碧眼を持つ、エルフ族を思わせる長い耳をした人間でいえば20代くらいの美しい女神である。

「そう、第6次……あの忌まわしい大魔法陣稼働の時です。その後、魔獣と共に降り注いだ魔素は近辺の小動物に生死関わらず取り付き、魔獣を急速発生させたとの記録が残っております。しかしながら星龍王殿の報告では現在、そう言う現象はまだ見られないとか」

「ミカド新生に必要量かどうかも難しいところね。ライラさま並みの魔素量には達してるかもしれないけど」

「これがミカドの仕業だとして、彼奴はこの魔素をどうするつもりなんだろな。まわりにゃ、あれだけ魔獣がうようよしてるわけだし、これ以上魔獣増やしても意味ねぇだろしさ。誰かあたいにもわかるように説明してくれねぇか?」

「ウドラの言うように魔獣増殖でなければ、目的はミカドの完全自力新生ではなかろうかの? 今はサワダの身体を依り代にしておるだけじゃろう?」

「テクナール殿、その説で行けば、陛下やメーテオール猊下に並ぶ能力を持つサワダ卿との融合も視野に入れねばならぬと思われるが? そうなるとかなり厄介な相手となり得るわけであるな」

「ライラ陛下と並ぶ攻撃魔法の使い手、ブレーダー閣下ともあろう御方が弱気じゃないかしら?」

「うむ、8魔王の名に懸けて、ウェン殿ら12神のお手を煩わせないようにしたいところであるが、今回ばかりは未知数の部分が多すぎるのである」

「ブレーダー殿ら魔王連が手古摺るなら次に当たるのは異世界人どもじゃな」

「しかし連中、僕たちのことは色眼鏡で見てるだろうねぇ。勝手に魔法陣強制起動の方にシフトされちゃったしねぇ。僕はクロダやリョウジの事、気に入ってたんだけどなぁ。あんまり喧嘩したくないよ」

「ペインの言う事もわかるけど、やはり我らはアデス優先。もし彼らが歯向かってきたら容赦するわけにはいかないよ」

 と言いながら酒瓶を煽るマリアル。だがその表情は複雑だ。

「……ホーラさま。私、南門の方へ様子を伺ってまいりますわ。何かありましたら至急連絡をお入れいたしますので」

「夜王」

 ホーラは顎をクイッと振って見せた。そのままバルコニーに向かう。

 ラーも彼女についてバルコニーへ出る。


 パン! パン! パパパーン! 

 ドオォーン!

 外に出ると市中のあちこちから大きな爆裂する轟音が響いた。ラーやホーラにとっても聞き慣れない音である。

「なんでしょう、あの音は?」

 ラーは初めて聞く、妙な音の正体が気になった。魔獣側の攻撃によるものでなければいいがと思う。これ以上の不安定要素は欲しくないとばかりに。

「おそらくセイイチが考案した異世界の武器の音だ。爆裂魔法を筒に押し込んだようなもので、女子供でも魔獣を仕留められる代物だそうだ」

「まあ、セイイチさまったら、いつの間に」

「困ったものよ。アデスの軍事バランスがひっくり返りかねんと言うに」

 二人が呆れる中、銃声は尚も鳴り続いた。

「それで……ご用向きは?」

「一応、聞いておきたくてな」

「セイイチさまの事……で、ございますか?」

「ああ……」

「私の気持ちは変わってはおりません。心からお慕い申し上げております」

「そうか……」

「……私がアデスを裏切り、セイイチさまに与すると思われですか?」

「周りの連中の中には、な……」

「アイラオから、こう聞かされました。初めて出合った頃のキミでいてくれと……セイイチさまの伝言だと。そのお言葉に、私の中でより一層、セイイチさまへの想いが強くなるのを感じましたわ」

「お互い、因果な縁を持ったものだな」

「おかげで……あれほどいがみ合っていた私たちが、こうして肩を並べるなどと……」

「全く、信じられん話だな」

 思わず苦笑を押さえきれないホーラ。だがその眼は何か悲しそうである。

「あの方を、哀しませたくはありません……」

「我の気持ちも貴様と同じだ。我も心底あやつを愛しておる。お互い、その気持ちを(たが)えたくはないものだな」

「はい。……では南門へ参ります。あとは良しなに」

「ああ、十分気を付けてな」

 挨拶を終え、ラーは門に向かって転移していった。

 パン! パン! タターン!

 ホーラは彼女が向かった南門方面を凝視しつつ、まだ鳴りやまぬ銃声や砲声に溜め息をついていた。

「情緒も矜恃も何もない戦いの時代が来るのかな……」

 鳴り響く銃声の中、ホーラは何となくそんなことを呟いた。

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